「亜洲狂詩曲 アジアン ラプソディ」中野正貴著
■「いつも切なく、物悲しく、そして美しい」アジアの風景
35年の歳月をかけ、アジア10カ国で撮影したそれぞれの国の日常の断片を年次や地域に関係なくシャッフルし、著者が感じた「アジアというひとつの国」を構築した写真集。
見開きの左側のページに孫と祖母のほほ笑ましい写真(中国・上海の浦東)を配したかと思えば、右側はタイの歓楽街パッポン通りの妖しげな店の前に座り込む親子らしき姿を写した写真が並ぶという具合だ。
路上を埋め尽くした人から車中の人々まで、すべての目が頭上の大型スクリーンを見つめている風景は、香港がイギリスから中国へ返還された1997年7月1日のその瞬間をとらえた写真だ。
この作品は例外で、他は淡々と流れていく、その国のなんでもない日の日常の積み重ねだ。日本もまぎれもなくアジアの一員。路上でどんぶりを片手に一心に食事をする労働者(大阪・西成)や、米兵相手の店が並ぶ沖縄・辺野古の社交街、そして震災後の宮城・志津川の風景も収録されている。