「阿蘭陀西鶴」朝井まかて著
「好色一代男」「好色五人女」などの浮世草子で知られる井原西鶴には、盲目の娘、おあいがいた。目が見えなくても、目明きと何ら変わらない。とりわけ台所仕事は人並み以上。若くして世を去った母が、幼いころから手取り足取り仕込んでくれたおかげだ。多感なおあいは、父が疎ましい。大坂俳壇で俳諧師として名を馳せる父は、手前勝手で、ええ格好しい。目立ちたがり屋で、カエルのように騒々しい。我こそ新風、異端とばかり、阿蘭陀西鶴を自称している。
その父が、何を思ったか、草紙に手を出した。珍しく文机の前に座り通して「好色一代男」を書き上げた。ところが、旧知の板元はどこも出板を拒否。世俗の物語など俳壇の恥、俳諧師の名折れと指弾されるが、ようやく日の目を見ると、売れに売れ、ベストセラーとなった。庶民は面白い物語を欲していた。
ほとんど知られていない西鶴の一生を今年「恋歌」で直木賞を受賞した著者が、娘おあいの繊細な感性を通して描いた長編小説。わずかな史実をもとに、人間くさく、魅力あふれる西鶴像をつくり上げた。
日本の元祖エンタメ作家、西鶴の創作の姿勢が、現代のエンタメ作家のそれと重なる。