「荒神」 宮部みゆき著
蓑吉少年はたった一人、わずかな月明かりを頼りに、深夜の山道を駆け下りていく。寝静まっていた村に、何か恐ろしいことが起きている…。
時は元禄。東北の山あいで隣り合う長津野藩と香山藩は、戦乱の時代以来、因縁の対立を続けていた。長津野藩では、曽谷弾正なる藩主側近が専横し、恐れられていた。香山藩では、側室が産んだ子が不審死。不穏な気配が漂うなか、香山藩に属する仁谷村が何者かに襲われ、一夜にして壊滅した。家は無残に打ち壊され、焼かれ、村人は一人残らず姿を消していた。どうやら、とんでもない怪物の仕業らしい。
山で気を失って倒れていた蓑吉は長津野藩領内で助けられた。弾正の妹・朱音、用心棒の宗栄など、心やさしき人々は、傷ついた蓑吉をかくまう。一方の香山藩では、藩主小姓の小日向直弥が、幼なじみの足跡を追って山に分け入った。
山の民を震え上がらせた怪物は、果たして生き物なのか。それとも、山を汚す人間に怒りの鉄槌を下す神なのか。未曽有の災厄に巻き込まれた人々は、敵対する藩の壁を乗り越え、命がけで怪物に立ち向かう。