「トワイライト・シャッフル」乙川優三郎著
時代小説の分野で、時代小説大賞、山本周五郎賞、直木賞を総なめにし、昨年初めて挑んだ現代小説「脊梁山脈」で大佛次郎賞を受賞した著者による現代小説第2弾。美しい海と砂浜のある房総半島の町を舞台に、思い通りにならない人生を生きる人々を丁寧に描く。
収録されているのは、元海女の切ない友情をつづった「イン・ザ・ムーンライト」、房総の地に流れ着いた異国人の物語「サヤンテラス」、観光客のためにピアノを弾く孤独なピアニストのささやかな挑戦を描いた「オ・グランジ・アモール」、離婚後にがんを発症した女の再起の物語「ミラー」、一家の大黒柱として難病の弟を支えてきた姉がヌードモデルのアルバイトをする「ムーンライター」、年に一度だけの逢瀬を繰り返す不倫男女を描いた「サンダルズ・アンド・ビーズ」、交通遺児の境遇で朝から晩まで働き尽くした男が見つけた希望の物語「私のために生まれた町」など計13の短編。
焦燥や失望、諦観や再起への望みなど、人生の苦味を知る年頃になった大人なら誰もが身に覚えのあるさまざまな感情が、それぞれの物語の中に静かに息づいている。