「世を捨てれば楽になる」北杜夫著
2011年に亡くなった著者の傑作エッセーを編んだ作品集。
肺炎で入院生活を送ってもたばこがやめられず、何とか家にたばこを持ち込もうとする自分とそれを阻止しようとする妻との攻防。老化現象で自己抑制がきかなくなりウナギ屋にカンシャクを起こし、自分でウナギ屋を開いて「あの店をつぶしてやろうと」さえ本気で考えたという話。そして晩年の父親(斎藤茂吉)と過ごしたひと夏の思い出、など。
老いの境地を語った章をはじめ、芥川賞を受賞した「夜と霧の隅で」の執筆に苦労した体験から身についた「シメキリ恐怖症」などの執筆奮闘記、さらに身近な家族や食にまつわる話題まで、ユーモアに包んでつづられる「マンボウ節」に心の凝りがほぐされる。(河出書房新社 780円+税)