単なる「差別ババア」ではないことに気づく
「人間の分際」曽野綾子著
昨今の曽野綾子氏といえば、多くのネットユーザーからは「『出産したら会社辞めろ』と言った婆さん」や「アパルトヘイト容認差別ババア」といったイメージを持たれている。
それは、2013年以降、曽野氏が紙媒体に書いたものが何度かネットに転載され、読者層が幅広いネットユーザーを激怒させたことに起因する。「紙媒体に閉じこもる」ということが不可能になったことの象徴的なできごとである。
しかしながら、ネットの炎上というものは、ネガティブな面を探すことだけに躍起になりがち。だからこそ多くのユーザーは曽野氏がバチカン有功十字勲章を受章したり、世界各国でNGO活動を展開したり、吉川英治文化賞や菊池寛賞を受賞し、文化功労者にも選ばれている事実を知らない。
ただの「口の悪い保守派のババア」「女老害界のラスボス」といった扱いを完全に獲得した感がある。しかし、実際に同氏の文章を読んでみると、含蓄に富んだものが多く、常識的なものがあることに気付く。だからこそ、多数の連載を御年83にして持ち続けているのだろう。私自身、政治的思想はないし、キリスト教徒でもないが、案外曽野氏の文章は昔から納得することが多い。