地に落ちた“理想の共同体”EUの現在 閉ざすヨーロッパ
「ヨーロッパから民主主義が消える」川口マーン惠美著
急増する中東難民の大量流入に恐怖するEU。次々に国境を閉ざしている――。
シリアをはじめ中東から続々と難民がヨーロッパに押し寄せている。密航業者の手引きで命からがらギリシャやイタリアやトルコにたどり着いた彼らがめざすのはEUで最高の好景気を誇るドイツ。しかし途上のボスニアやハンガリーの国境地帯は厳重な警戒のもと難民であふれ、当初は果断に難民受け入れを宣言したドイツでも極右団体はじめ猛烈な排外主義とメルケル首相批判が噴出し始めた。さらに難民の他の希望先として人気のスウェーデンやオランダでも排外主義がうねりを見せている。「EUはひとつ」を掲げてきたヨーロッパで一体なにが起こっているのか。
本書はドイツ在住の著者が解き明かす“地に落ちた理想の共同体”の現在。域内の自由な通行などを実現した経済共同体だが、今日の事態は「域内」と「域外」を分けるヨーロッパ人の差別感覚も呼び起こした。指導力なき仏大統領オランドはテロで求心力を強める一方、鉄壁だったはずの独首相メルケルはあくまで受け入れを主張しつつも窮地に立たされている。
かつてEUが誕生したとき「アフリカ人がボロ船に乗って、毎日のように渡ってくるとは、誰も想像していなかった。日本海が、現在の地中海のようになることも、だから想定外のことではない。しかもそうなるとしたら、いまのEUのように、あっという間のことだと、私は思っている」という著者の一言が重い。(PHP研究所 800円+税)