「中谷宇吉郎 雪を作る話」中谷宇吉郎著
物理学者で雪の研究の第一人者だった著者がつづった珠玉の随筆集。明治33年に石川県に生まれ、ヨーロッパ留学の後、北大理学部で雪の研究に魅せられた著者は、人工雪の製作や天然雪の結晶写真の撮影にのめり込んでいった。本書には、そんな彼ならではの随筆「自然の恵み」「雪の十勝」「雪を作る話」のほか、太平洋戦争中の昭和18~19年に有珠山で頻発した地震と地盤隆起について書いた「天地創造の話」、科学は自然に対する純真な驚異の念から出発すべきではないかという、科学教育に対する意見をつづった「簪を挿した蛇」など全13編が収録されている。
科学的視点から日常の事象を観察したときに浮かび上がってくる興味深い事実を、丁寧に取り上げていく中谷の随筆は、美しい上に示唆に満ちている。添付の栞に書かれた福岡伸一氏の評で、彼のことを日本という国をはるかに超えて世界性を獲得した「元祖トランス・ジャパニーズ」だと評しているのも興味深い。(平凡社 1400円+税)