「情け深くあれ」岩井三四二著
信長が京に入り、市中は騒然としていた。医師・曲直瀬道三の弟子、英俊は道三の代診で、中風に苦しむ幕府の元奉行・松田駿河守の屋敷を訪れた。薬を処方して辞去しようとしたとき、「謀反の疑いあり」と呼ばわって7人の兵がなだれこんできた。
兵の後に入ってきた50年配の男は明智十兵衛光秀と名のり、道三の弟子であると知ると、英俊の見立てを信じて引き揚げる。だが、恐れを見せず、医師として松田の病状を告げる英俊が元武士であることを見破り、「おれの家来にならぬか」と言う。(「情け深くあれ」)
戦乱の世に武士を捨て、医師として生きる男を描く時代小説。表題作ほか6編。(文藝春秋 1600円+税)