男が読んでも「ヤッベー」と感情が揺れる怪書
「【東京女子図鑑】~綾の東京物語~」東京カレンダー(扶桑社 920円+税)
ウェブサイト「東京カレンダー」の連載時、一部の層の人々を興奮させた連載の書籍化である。一体何が熱狂させたのかといえば、「書いてるのはオッサン」といった評価があり、ステレオタイプなハイセンス東京都会生活にツッコミが入りまくったのだ。
秋田県出身の「綾」が23歳で上京し、まずは三軒茶屋に住み、3~5年おきに恵比寿、銀座、豊洲、代々木上原と移り、40歳で再び三軒茶屋へ。その間友人と夜にカフェでお茶をしたり、金持ちの男からご馳走してもらったり、結婚をして離婚して再婚をする。そんな「綾」の20年間を振り返ったのだが、連載当時は「綾は次にどこに住むのか?」という予想を皆がしていたのである。
話としては、「なんとなく、クリスタル」の現代版というか、松嶋菜々子が出てきそうな1990年代風トレンディードラマ的展開が延々続く。基本的には東京の各街の魅力を紹介するとともに、ひとりの女がどのようにして「格」を上げては、他の女よりもいかに魅力的ですてきな人生を送っているかのマウンティングをする「プチおんな太閤記」である。三軒茶屋の次に住んだ恵比寿についてはこう記述される。
〈歩いている人も、三茶とは違う。ちゃんと、女として準備万端というか、いつ脱いでも恥ずかしくないように体も身だしなみもオールOKって女性が多い気がする。残念ながら三茶の女性は、「あ……今日脱げない……」って日が結構ある感じ〉
こうして、自意識の高い「綾」が金持ちの男からさまざまな店を教えてもらい、田舎者や若い女を見下しつつも、40歳となった自分が若い女からは「イタイ」と思われていると予想するが、「それは、そのまま、あなたが10年後に若い子たちから向けられる感情ですから」と言い放つ。
もう何が何やら分からぬ話なのだが、「こんなヤツいねぇ(笑い)」や「こんなヤツいるいる」などとツッコミを1ページに2回ほどはできてしまう稀有な本といえよう。また、それなりの年輩男性にとっては、綾のような野心あふれる女と対峙した時に果たして自分は彼女を満足させられる魅力的な男だろうか……と判断するリトマス試験紙にもなっている。
バカにしながら読み始めても、「やべっ、オレ、クライアントへの手土産を『和光』で買ってない」などと少し恥ずかしい気持ちにさせられる。妙な感情の揺れをもたらす怪書である。
★★(選者・中川和淳一郎)