「うつけ者の値打ち」辻堂魁著
風の市兵衛シリーズの第17作である。シリーズの途中から読むのは無理、と言わずにぜひとも読まれたい。続いているわけではないので、どこから読んでも大丈夫。これが面白ければ遡ればいい。
主人公の唐木市兵衛は渡り用人である。旗本や小大名の事務会計などの面倒を見る期限付きの財政コンサルタントで、そういう算盤侍になったいきさつは長くなるので省略。とにかくその設定のために、さまざまな問題(財政危機の裏側には問題が隠されていることが多い)を主人公があぶりだすドラマが自然に生まれてくる。
岡場所をめぐる争いを仲裁してほしいという今回の依頼のように、本来の仕事を離れることも少なくなく、最近では市兵衛、もめ事の相談侍である。
公儀十人目付の兄片岡信正、その配下の弥陀之介、定町廻り同心の渋井鬼三次など、脇をかためる人物もみな個性的で、これも長く続くシリーズものの特色だろう。しかも読んでいて飽きないのは立派。
書き下ろしの時代小説文庫は数多く、いったい何を読んでいいものやら門外漢にはわからないことが多いけれど、この辻堂魁の風の市兵衛シリーズは信頼していい。17巻の本書の帯には「シリーズ累計110万部突破」とあるので、読者の人気を集めているものと思われるが、読んでいただければ、それも納得するだろう。ぜひおすすめだ。(祥伝社 640円+税)