「暗幕のゲルニカ」原田マハ著
ニューヨーク近代美術館の絵画・彫刻部門のキュレーター八神瑤子は「ピカソの戦争」展を企画するが、それには反戦絵画の傑作といわれている「ゲルニカ」の展示は欠かせない。ピカソの「ゲルニカ」は1937年、パリ万博のスペイン館のために制作されたもので、内戦真っただ中のゲルニカを、フランコ将軍に味方するナチス・ドイツの航空部隊が空爆。その惨状を知ったピカソが反乱軍と戦う共和国政府を支援しようと絵筆を執った作品である。かくて八神瑤子は「ゲルニカ」の貸し出しをお願いするためにスペインに渡っていく。
その「ゲルニカ」が、1981年にスペインに返却されるまで42年間もニューヨーク近代美術館に展示されていたこと。返却後は「ゲルニカ」のタペストリーがピカソ監修のもとに作られ、国連ロビーに置かれたこと。ところが2003年、イラクへの武力行使が国連で決議されたとき、記者発表が行われたロビーのタペストリーには暗幕がかけられていたこと。さらにその「ゲルニカ」がどうやって制作されたのかということまで、八神瑤子とスペイン政府の交渉の間隙を縫うようにいくつもの挿話が挿入されていく。
はたして八神瑤子の交渉は実るのか。なぜスペイン政府は貸し出しを拒否するのか。「ゲルニカ」はふたたびアメリカにやってくるのか。一気読みの絵画サスペンスをたっぷりと堪能されたい。(新潮社 1600円+税)