「パンドラの少女」M・R・ケアリー著、茂木健訳
いやあ、面白いぞ。読み始めたらやめられず、一気読みは必至という面白さだ。
全世界に奇病がまん延し、文明社会が崩壊した未来が舞台の長編である。その奇病とは、キノコが脳に寄生すると人間としての精神を失い、「餓えたやつら」と化して人間を襲うようになるというものだ。
主人公は、ロンドンから80キロ離れた陸軍基地の地下の独房に監禁されている10歳の少女メラニー。なぜ彼女が監禁されているかといえば、キノコに脳を完全に支配されておらず、人間としての正常な知能を有しているからだ。奇病にかかりながらも、いまだゾンビと化していないのはなぜか。それを解明すれば、この大厄災を人類が生き延びるチャンスが生まれてくる。というわけで、メラニーをはじめとする子供たちは研究対象として監禁されている。
ところが「廃品漁り」と呼ばれるならず者の集団が基地を襲ってきて、メラニーは教師、科学者、兵士2人の計5人で、南イングランドの臨時首都をめざして逃げ出さざるを得なくなる。緊迫感あふれるその逃避行を描いたのが本書だ。
このストーリーから明らかなように、SFではあるけれど、その逃避行の波瀾万丈のディテールが中心となっているので(アクションも鮮やかだ)、ミステリー読者もたっぷりと堪能できる。壮大なラストまで一気読みの傑作だ。(東京創元社 2000円+税)