「落陽」朝井まかて著
東京の喧騒を忘れさせる豊潤な緑の森であり、多数の参拝者が訪れる明治神宮。この神宮造営を巡る物語を2つの異なる視点で描く。
時は明治45年。主人公は大手新聞社を女性絡みの悶着で辞め、今は醜聞を扱う大衆紙の記者、瀬尾亮一。記事掲載をネタにゆすりを働く悪稼業で、くすぶった日々を送っていた。ところが、明治天皇崩御を機に、記者魂が目覚める。「東京に明治天皇を祀る神社を造る」という壮大かつ無謀と思われる計画を同僚の女敏腕記者、伊東響子から聞いたからだ。候補地の代々木は当時辺鄙な地で、絶望的な荒野だった。
林学研究者は不可能と判断するも、政財界の有力者は東京での神宮林造営を強硬に推し進める。響子は研究者とともに、崇高かつ永劫の神宮林の在り方を探っていく。一方、瀬尾は激動期の日本を支えた明治天皇の生涯に思いを馳せ、密かに独自取材を進めていく……。
明治神宮の森は今でこそ美しき森だが、その履歴を手繰ると泥臭さときな臭さも垣間見える。さまざまな人の覚悟と熱意が今の美しい森を築いたのだと気づかされる物語だ。(祥伝社 1600円+税)