安倍首相の“問題発言”で解く民主主義とは
「安倍でもわかる政治思想入門」適菜収著 KKベストセラーズ 1300円+税
この本のタイトルにある“安倍”とは、現職の安倍晋三内閣総理大臣のことである。
書店販売では、どこで撮ったものなのか、お花畑でにこやかに立つ安倍晋三の写真の帯が付いているのですぐにそれとわかるのだが、要は、その図柄のとおり“お花畑”にいるとしか思えない現職の首相のとんちんかんな発言を取り上げて、痛烈な批判を加える著作である。
例えば、今年5月16日の国会答弁。
「議会の運営について少し勉強していただいたほうがいい。議会については、私は『立法府の長』」
義務教育を受けた者ならわかるように、三権分立における「立法府の長」は衆参両院議長であって、首相は「行政府の長」である。
あるいは、今年1月4日の年頭記者会見でのこの発言。
「デフレではないという状況をつくり出すことができたが、デフレ脱却というところまできていないのも事実」
いったいなにを言いたいのか、よくわからない。
こうした問題発言を列挙しながら、著者特有の言い回しで「バカ」「アホ」「イカレポンチ」と辛辣な論評を加えていく。と同時に、民主主義とはなにか、保守とはなにかを、政治思想、哲学から、それこそ“サル”でもわかるように読み解く。一読すると、問題発言に笑ってばかりはいられない、日本の置かれた政治状況が少しずつ恐ろしくなる。
その解説の中に、三島由紀夫が自決の直前に語った「檄」からの引用があった。
「政治は矛盾の糊塗、自己の保身、権力欲、偽善にのみ捧げられ、国家百年の大計は外国に委ね、敗戦の汚辱は払拭されずにただごまかされ、日本人自ら日本の歴史と伝統を涜してゆくのを、歯噛みしながら見ていなければならなかった」
安倍晋三は、TPPを「国家百年の計」と豪語していた。トランプ次期大統領の誕生でそれも絶望的である。
三島が看破していたように、そして本書で著者が言うように、現職首相のしていることは、米国の要望どおりに国の形を変えていく、「戦後レジーム」の固定化である。安倍を「保守」と見立てること自体が間違っている。