ルワンダで出会ったゴリラに思わず「お父さん!」
「ゴリラは戦わない平和主義、家族愛、楽天的」山極壽一、小菅正夫著/中央公論新社 800円+税
縁あってサル学者の先生方の忘年会に呼ばれたことがある。オランウータンの先生が「最近、あいつはキイキイ怒りっぽいんだ」と体を揺すって言えば、「日本ザルに似たんだな。キャキャキャ!」と笑う先生はリスザルっぽく、「研究していると似ちゃうからなあ」とアゴを揺らしながら豆をかじる先生の姿は、アイアイそっくりだ。
人間の宴会なのに、なぜか私だけアウェー感で胸がいっぱいに。
しかし翌年、世界一周旅行に出た私は、最も人間らしい動物とアフリカで出合うことになる。マウンテンゴリラだ。ルワンダの山中をガイドに連れられさまようこと3時間、茂みの向こうに巨大なシルバーバックのゴリラがドーン! 「お父さん!」と思わず声をかけたくなるほど、顔つきも無愛想な態度も私の父にそっくりで驚いた。我々に気が付いたチビゴリラは勇ましく胸を叩いて威嚇。慌てふためく観光客を横目に父ゴリラが「小僧、そのくらいにしとけ」といさめたり、奥さんたちが揉めれば、「おいおい」と仲裁に入る。人間同様、父ゴリラも大変そうだ。
ゴリラ研究に生涯を捧げてきた京大総長の山極壽一氏と旭山動物園元園長の小菅正夫氏がゴリラについて語り尽くす本書では、人間関係ならぬゴリラ関係を円滑にする素晴らしい生態に迫っている。
群れ同士が出合うとオスはまず、自分の胸をドコドコ叩いて威嚇する。オス同士が本気で戦うと噛み合って死に至ることもあるが、大抵は「まあまあ」とどちらかの妻ゴリラが止めにはいる。「俺は戦ってもいいが、奥方の顔を立てて今日のところはこのへんにしといてやる」と双方、メンツを保ちつつ引き分け。勝たないが負けないゴリラの美学。
それに引き換え、勝ち組、負け組と勝ち負けを決めたがる人間の浅ましさ。「勝ち続ければ待っているのは孤独なのに」とおふたりは嘆く。
今こそ人間は、戦わず相手も自分も傷つかないゴリラの生き方を学ぶべきだと、本書は教えてくれるのだ。