著者のコラム一覧
白石あづさ

日本大学芸術学部卒。地域紙の記者を経て約3年間の世界放浪へと旅立つ。現在はフリーライターとして旅行雑誌などに執筆。著書に「世界のへんな肉」「世界のへんなおじさん」など。

カルト村の生活は案外楽しいかも

公開日: 更新日:

「さよなら、カルト村。思春期から村を出るまで」高田かや著/文藝春秋 1000円+税

 10年以上前、ハバナでお腹の大きな日本のコギャルちゃんに会ったことがある。キューバ人のダンナでもいるのかと思ったら、「日本の彼が妊娠と聞いて逃げちゃって。お金もなく困っていたら、六本木のキューバ人が『うちの国、出産費用も生活もタダ』って言うから来てみたの」という。

 彼に騙されたハタチのコギャルを救うのは、先進国の日本ではなく社会主義国のキューバなのか。貧富の差はなく、学費も医療費も無料。職はあるし、配給制だが飢えることもない。しかし、キューバから出たことのない若者たちは「自由のない暮らしはいやだ。金が欲しい。競争社会? 日本人は誰もが楽して幸せなんだろ?」と口をとがらすのだ。

 その世界の良しあしは実際に暮らした人でなければ分からない。日本のカルト村で生まれ育った高田かやさんの実録漫画「カルト村で生まれました。」の続編である本書を読みながら、「案外、楽しそう」と思わずにはいられなかった。もちろん、カルト村であるからして自由はなく理不尽なことは多々あるのだが、等身大の女子目線で素直に描かれた村の四季折々の暮らしぶりは興味深い。

 親から引き離され、各地の村に飛ばされた子供たちは、一般の小中学校に通い、農業や家事をしながら集団生活を送る。親は恋しいが、同じ年の子供たちとお菓子を作ったり恋の話をしたり。中学生で初めて手にした「お金」なるものに胸が高鳴り、寮の洗濯物係に任命されれば、憧れの男子のパンツを手に頬を赤らめる。

 一般の子とはだいぶ変わった青春を過ごしながらも、高田さんはそこそこ居心地の良い村に残るつもりであったようだ。しかし、ある理由から、自分の担当以外は何もかも面倒を見てもらえる村から、自由だけど厳しい一般社会に両親とともに「出る」ことになる。いったいどんな変化が待ち受けているのか? 「アルプスの少女ハイジ」ならぬ「カルト村の少女かや」。大海原にこぎ出す、ひとりの少女の成長物語として読んでもおもしろい一冊だ。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人が戦々恐々…有能スコアラーがひっそり中日に移籍していた!頭脳&膨大なデータが丸ごと流出

  2. 2

    【箱根駅伝】なぜ青学大は連覇を果たし、本命の国学院は負けたのか…水面下で起きていた大誤算

  3. 3

    フジテレビの内部告発者? Xに突如現れ姿を消した「バットマンビギンズ」の生々しい投稿の中身

  4. 4

    フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

  5. 5

    中居正広はテレビ界でも浮いていた?「松本人志×霜月るな」のような“応援団”不在の深刻度

  1. 6

    中居正広「女性トラブル」フジは編成幹部の“上納”即否定の初動ミス…新告発、株主激怒の絶体絶命

  2. 7

    佐々木朗希にメジャーを確約しない最終候補3球団の「魂胆」…フルに起用する必要はどこにもない

  3. 8

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 9

    フジテレビ「社内特別調査チーム」設置を緊急会見で説明か…“座長”は港社長という衝撃情報も

  5. 10

    中居正広「女性トラブル」に爆笑問題・太田光が“火に油”…フジは幹部のアテンド否定も被害女性は怒り心頭