「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀氏
若者たちをファシズム体制に順応させることを狙い組織された「ヒトラー・ユーゲント」。1936年以降はドイツの国家機関となり、ドイツの青少年たちは集団活動を通じて肉体の鍛錬を行い、祖国愛とナチ思想を教え込まれた。
「しかし、そんな画一的な価値観の押し付けに従う若者ばかりでないのは、今も昔も同じこと。当時も、ヒトラー礼賛など“バカじゃねぇの?”とばかりに反発した若者たちは、決して少なくなかったようです」
本書は、1940年前後のハンブルクを舞台に、敵性音楽として排斥されたジャズに熱狂した若者たちを主人公に描かれる物語である。当時のドイツには、ナチス政権に反旗を翻した「白バラ」や、労働者階級の子弟たちで組織された「エーデルワイス海賊団」などの抵抗グループがあったが、本作の着想を得たのは、「スウィング・ユーゲント」と呼ばれた若者たちだった。
「彼らは中産階級の子弟であり、体制には反発するものの、ことさら反戦を唱えるわけではないんですね。いわゆる“ノンポリ”です。わざと長髪やおしゃれをし、夜な夜なクラブに集まってはドイツ精神に有害とされたジャズに合わせて踊り狂う。そんな刹那的、享楽的な生き方は、ナチスという受け入れがたい現実への抵抗であったのかもしれません」