「竜宮城と七夕さま」浅田次郎著
浦島太郎の話は謎だらけ。亀の背中で海の底に向かうとき、どうやって呼吸したのか。乙姫様との関係はどうだったのか。竜宮城ではどんなごちそうを食べたのか。まさかサシミではあるまい。
あるいは、雨の七夕。逢瀬がかなわなかった彦星と織姫の関係はどうなるのか。いくら愛し合っていても1年も会わずにいたら破綻するのではないか。
物語や伝説に想像力を涵養された少年は、長じて小説家になった。今では超多忙な売れっ子作家。朝から晩まで書斎にこもって原稿を書いているのかと思いきや、その日常は実にタフでアクティブ。小説の取材で中国に通い、締め切りの隙間を縫ってラスベガスで息抜き。愛馬が出走するとなれば、地方競馬場に遠征する。年齢相応の不具合を抱えながらも、熱い風呂が大好きで、食い意地は人一倍。「汝は何故痩せんと欲するか。ただちにダイエットの煩悩を去れ」と、都合のよい天の声を聞いたりする。
そうした日々の出来事が、作家自身の手で料理されて、笑いと滋味をたっぷり含んだ絶品エッセーになる。
JALの機内誌「スカイワード」の人気連載をまとめた単行本の4冊目、全40話。作家の話術に引き込まれ、読み出したら止まらない。
(小学館 1400円+税)