「裸の巨人」阿久真子著

公開日: 更新日:

 サブカルチャーとエロが咲き誇った時代に、やりたい放題やって、成功と破滅を体験した男は、古希を目前にした今、6畳一間に一人で住み、一心不乱に絵を描き、塩むすびのうまさをかみしめている。

 山崎紀雄。AVメーカー宇宙企画やアダルト雑誌の英知出版を経営し、男たちの心をつかむ数々の名作をつくり、莫大な富を築いた。生活ぶりは贅をきわめ、アメリカで「PLAYBOY」を創刊した大富豪にたとえて、「日本のヒュー・へフナー」と呼ばれた。

 エロで稼いだ男は、エロと真剣に向き合った。カメラの前で脱いでくれる美しい女の子を一生懸命に探し、カメラマンに自ら指示を出した。下着は白のシルク。法に触れずにどこまで見せるか、あの手この手を駆使した。美しい肌の色に徹底的にこだわり、色校正に何度もダメ出しをした。その厳密さは、印刷会社の製版技術を高めたとさえいわれている。

 やることが普通ではない。豪邸を建て、別荘をいくつも持ち、億単位の名画を買い集める。自らもピアノを弾くジャズイベントで、舞台上に生きた豚を吊るし、鳥やネズミを放し、揚げ句の果てに警察に通報される。

 雑誌の発禁処分、コンビニからの撤退などが重なって会社が傾くと、絵画や土地を売ってしのぎ、熟女写真集で起死回生を図った。松坂慶子の写真集「さくら伝説」は大ヒット、自ら「奇跡の一冊」ともらす。山崎は、エロの世界に身を置いて、本気で美を追求した。 

 著者は女性向けアダルト動画の脚本も書いているライター。山崎とその同志たちに取材し、エロの制作現場を通して、あの時代を記録した。かつて、こんなにもメチャクチャで、熱くて、自由な時代があったのだ。

(双葉社 1800円+税)


最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    菊間千乃氏はフジテレビ会見の翌日、2度も番組欠席のナゼ…第三者委調査でOB・OGアナも窮地

  2. 2

    “3悪人”呼ばわりされた佐々木恭子アナは第三者委調査で名誉回復? フジテレビ「新たな爆弾」とは

  3. 3

    フジテレビ問題でヒアリングを拒否したタレントU氏の行動…局員B氏、中居正広氏と調査報告書に頻出

  4. 4

    フジテレビ“元社長候補”B氏が中居正広氏を引退、日枝久氏&港浩一氏を退任に追い込んだ皮肉

  5. 5

    フジ調査報告書でカンニング竹山、三浦瑠麗らはメンツ丸潰れ…文春「誤報」キャンペーンに弁明は?

  1. 6

    おすぎの次はマツコ? 視聴者からは以前から指摘も…「膝に座らされて」フジ元アナ長谷川豊氏の恨み節

  2. 7

    大阪万博を追いかけるジャーナリストが一刀両断「アホな連中が仕切るからおかしなことになっている」

  3. 8

    NHK新朝ドラ「あんぱん」第5回での“タイトル回収”に視聴者歓喜! 橋本環奈「おむすび」は何回目だった?

  4. 9

    歌い続けてくれた事実に感激して初めて泣いた

  5. 10

    フジ第三者委が踏み込んだ“日枝天皇”と安倍元首相の蜜月関係…国葬特番の現場からも「編成権侵害」の声が