「クルマを捨ててこそ地方は甦る」藤井聡氏
地方都市の衰退が問題視されて久しい。商店街はシャッター街と化し、地元にいるのは高齢者ばかり。若者の流出が原因というのが“定説”だが、著者はその説に待ったをかける。
「人口の減少が地方衰退の原因と考えがちですが、そうではありません。地方都市といえば、駅前はガランとしていて店もレストランも住宅も郊外に集まっていますよね。これが成り立つには、地方の社会はクルマが前提になっているからです。実際、クルマなしでは生活できないと思っている人は多いでしょう。しかし、このクルマに依存しきった状態こそが、地方疲弊の重大な原因なんです」
著者の専門は都市社会工学。本書では、便利さの陰に隠れて着目されてこなかったクルマ依存がもたらす弊害を理論的に明らかにしながら、“脱クルマ”による地方活性化を指南する。
クルマが地方衰退の重要原因……。にわかには信じがたいが、そのメカニズムはこうだ。
「クルマ社会化が進展することで、公共交通の衰退と街の郊外化が同時に進行していきます。すると郊外にショッピングセンターが誕生し、地元商店街には人は訪れなくなります。これまで鉄道の駅や城などを中心にコンパクトにまとまっていた街が、このようにして薄く広く郊外へ溶けていくわけですが、ここに問題が隠れているんです。そのひとつが、大型ショッピングセンターの存在。どんなに買い物をしようとも、地元は潤わないんですね」
大型ショッピングセンターは、いずれも地域外の資本でつくられた店だ。つまり、利益の大半は本社のある都心へ吸い上げられる。このことを問題視した著者が徹底的に調査したところ、ざっくりした計算で「地元への還元率は1、2割」というから驚きだ。
「クルマ社会化が進むほど、住民が一生懸命働いて稼いだお金が地域外に流出し、地域経済はどんどん疲弊していくんです。地域産業が衰退すれば、地元に納める税金も少なくなり、行政サービスも劣化。魅力が失われた地域からは人口が流出、事業も撤退と、悪循環なんですね。でも逆に言えば、クルマ社会化の進展に歯止めをかけられれば、街は甦る。決して理想論ではありません。実は『クルマ利用による地方衰退』論は学者の間では常識ですし、科学的分析データも各国の成功例もたくさんあるんです。でも日本ではいざ都市計画となると、忖度が働くのか、合意に至らないんですね(笑い)」
とはいえ、最近では、脱クルマに舵を切る都市も出てきた。
「たとえば富山市は道路の容量を削ってLRTを導入、クルマ依存率の半減に成功しています。また中心地に建設された広場・グランドプラザはクルマ不可ですが、訪れる人が増え、接続する商店街にも賑わいが戻りました。京都市の四条通りでは、片側2車線を1車線に削り、3・5メートルだった歩道を6・5メートルに拡張。すると、毎月の歩行者数は拡張前より2割程度アップ、沿道の商店での消費額も増加しました。なんと、地価も上がったんですよ。バス利用する人が増え、渋滞もありません」
クルマは利便性と同時に不幸ももたらす。だから依存するのではなく、上手に付き合うことが大切だという。
「歩いて地元の商店に行けば運動不足も解消、コミュニティーも復活してくるでしょう。私は自家用車を手放してライフスタイルが一変しました。お金は浮くし、外食の際、酒が飲めるし、メリットを享受していますよ。街中へは電車やバス、都市間の移動や物流などはクルマといった具合に徒歩と公共交通とクルマを上手に使い分け、ベストミックスの社会を実現したいですね」
(PHP研究所 860円+税)
▽ふじい・さとし 1968年、奈良県生まれ。京都大学大学院教授(都市社会工学専攻)。イエテボリ大学心理学科客員研究員、東京工業大学教授を経て現職。第2次および第3次安倍内閣・内閣官房参与(防災・減災ニューディール担当)。著書に「超インフラ論」など多数。