「僕らだって扉くらい開けられる」行成薫著
超能力者たちを描く連作集だ。ただし、超能力の持ち主は、その能力を手にしたことを喜んではいない。なぜなら、たとえば会社員の今村心司は1日1回だけ使える念動力(テレキネシス)を持っているが、触れなくても動かせるものは、自分の片手で持てる重さのものに限定され、しかも右方向に10センチ動かせるだけ。さらにあまり離れるとだめで、せいぜい2~3メートルくらいまで。念動力を使うときはかなり意識を集中させなければならないから結構面倒で、だったら歩いていって手で動かしたほうが早い。
なにそれ、と思わず言いたくなる超能力だ。
この設定からわかるように、作品のトーンはユーモラスで、そういうユーモア小説かと思っていると、発火能力(パイロキネシス)を持つ主婦亜希子の回で展開する「夫婦小説」のくだりや、読心術(マインド・リーディング)の能力を持つ元教師の回における運動会の回想などに、思わず感じ入ってしまうから、この作者、なかなかの才人だ。
登場人物がクロスしながら進んでいくが、ラストは全員集合して、みんなが少しずつ力を合わせれば何事かが起きるという展開もいい。
著者は2012年に「名も無き世界のエンドロール」で小説すばる新人賞を受賞してデビューした作家でまだ新人だが、これからが楽しみな作家のひとりだろう。
(集英社 1600円+税)