「血のペナルティ」カリン・スローター著 鈴木美朋訳
いやはや、すごい。読み始めたらやめられず、最後まで一気読みだ。話は一見、シンプルに見える。なぜなら拉致された母親を救出する物語だからだ。ただ、それだけだ。複雑なことは何もない。それでもたっぷりと読ませるのは、冒頭からいきなり銃撃戦が始まるし、その後も怒涛の展開が続いて目が離せないからである。その迫力が群を抜いている。
実はこれ、ジョージア州捜査局特別捜査官のウィル・トレントを主人公とするシリーズの第5作だ。シリーズの途中からでは、これまでの作品を未読の人は読めない、と思うのが普通だが、カリン・スローターの場合は異なる。全然、平気である。このシリーズの場合、どこから読んでもいい。話がわかるように出来ているから素晴らしい。
60代の女性3人が大活躍するのも今回の特徴だ。詳しく紹介したいが、これは本書をあたられたい。ウィル・トレントをはじめとして、キャラが立ちまくりなのもカリン・スローターの特色だが、3人の婆さま以外にも、女医サラ・リントンと、ウィルの妻アンジーなど、個性的な女性が多い。これらの女性たちが時には協力し、時にはぶつかって、激しく競演する様子がすごい。
さらに、一見シンプルに見えた話の奥に真実が潜んでいる、との展開が何よりも素晴らしい。いま翻訳ミステリー界でもっとも面白い作家の新作を、ぜひ堪能されたい。
(ハーパーコリンズ・ジャパン1185円+税)