「森家の討ち入り」諸田玲子著
赤穂四十七士の討ち入りは、主君の無念を晴らす行いとして称賛されてきた。しかし47人のうち、神崎与五郎、横川勘平、茅野和助の3人は、赤穂の隣国・津山森家の旧臣で、討ち入りの少し前に赤穂藩に召し抱えられた新参者だった。3人は共に、生類憐みの令に基づいて10万余匹の野犬を収容するため、江戸郊外中野村に築造された御犬小屋の建設に従事していた。
御犬小屋築造の総奉行に任じられたのが津山藩2代藩主森長継の十二男、森衆利だった。その後、衆利は5代藩主となったが、幕府への継承挨拶へ向かう途中発狂したため、津山藩は改易となってしまう。藩を失った神崎らは、赤穂藩に移籍したのだ。
討ち入り前に、離縁した妻に別れの挨拶をする与五郎、瀕死の重傷を負った自分を親身に看病してくれた娘に淡い思いを寄せる和助、間諜として敵方に忍び込んでいる幼馴染みとの悲恋を貫く勘平――それぞれの恋模様を描きながら、彼らにとっての討ち入りの大義とは何だったのかを問う、もうひとつの忠臣蔵。
(講談社 1450円+税)