著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「犬から聞いた話をしよう」椎名誠著

公開日: 更新日:

 椎名誠は世界を旅してきた作家である。その旅の記録は、数多くのエッセー&紀行文として残されているが、椎名は写真家でもあるので世界各地で撮った写真が、それらのエッセー&紀行文に収録されている。旅の記録としての写真集も少なくない。

 あるとき、犬の写真が多い、ということに気がついた。意識して世界の犬を撮ってきたわけではないだろう。さまざまな国に住む人々や風景にカメラを向けてきたにすぎないと思われるが、数多くの犬が被写体として写り込んでしまうところに、この作家の感情がある。椎名誠は「ガクの冒険」という犬映画でデビューした映画監督でもあるように、希代の犬好き作家でもあるのだ。

 数多くの本に頻出する犬の写真を一冊にまとめてくれないかなあと、読者としてずっと熱望していたのだが、その夢がかなったのが本書である。

 まずカバー写真を見ていただきたい。アルゼンチンのウシュアイアという地球最南端の町で撮った一枚だが、一匹の犬がレストランの前でじっと座って飼い主が出てくるのを待っている。人間に忠実な犬という生き物の一瞬を、椎名誠は鮮やかに切り取っている。幼いガクがビーチサンダルに頭を乗せて寝ている写真もあるし、臆病そうな黒い犬が椅子の下で震えている姿もある。これはワンサという犬で、ホントにかわいい。

 全国の犬好き読者に贈る戌年のプレゼントだ。(新潮社 1800円+税)


【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…