「犬から聞いた話をしよう」椎名誠著
椎名誠は世界を旅してきた作家である。その旅の記録は、数多くのエッセー&紀行文として残されているが、椎名は写真家でもあるので世界各地で撮った写真が、それらのエッセー&紀行文に収録されている。旅の記録としての写真集も少なくない。
あるとき、犬の写真が多い、ということに気がついた。意識して世界の犬を撮ってきたわけではないだろう。さまざまな国に住む人々や風景にカメラを向けてきたにすぎないと思われるが、数多くの犬が被写体として写り込んでしまうところに、この作家の感情がある。椎名誠は「ガクの冒険」という犬映画でデビューした映画監督でもあるように、希代の犬好き作家でもあるのだ。
数多くの本に頻出する犬の写真を一冊にまとめてくれないかなあと、読者としてずっと熱望していたのだが、その夢がかなったのが本書である。
まずカバー写真を見ていただきたい。アルゼンチンのウシュアイアという地球最南端の町で撮った一枚だが、一匹の犬がレストランの前でじっと座って飼い主が出てくるのを待っている。人間に忠実な犬という生き物の一瞬を、椎名誠は鮮やかに切り取っている。幼いガクがビーチサンダルに頭を乗せて寝ている写真もあるし、臆病そうな黒い犬が椅子の下で震えている姿もある。これはワンサという犬で、ホントにかわいい。
全国の犬好き読者に贈る戌年のプレゼントだ。(新潮社 1800円+税)