「アルテミス」(上・下) アンディ・ウィアー著 小野田和子訳
人類初の月面都市「アルテミス」を舞台にした長編である。従ってSFではあるけれどミステリーの読者にも読んでもらいたい。これはそういう長編だ。
なぜなら、メインストーリーが、ある破壊工作だからである。主人公は非合法の運び屋稼業をしている女性ジャズ。依頼された破壊工作のために彼女が集めたのはその道のプロばかり。たとえば、ずっと仲たがいしていた父親もジャズが頭を下げて参加してもらうのだが、この父親は溶接のプロ。他にも船外活動のプロに、電子機器のプロ。彼らが困難なミッションに取り組む姿をテンポよく描いていくから、いやあ、面白い。
宇宙における冒険を描く小説であるので、やや専門的な用語が頻出するが、なあに、わからないところは飛ばせばいい。それでも彼らが直面する困難(この手の小説の定石通り、アクシデントが次々に起こり、それらをどう乗り越えていくかが読みどころである)と、解決までのサスペンスは十分に味わえるだろう。
「アルテミス」の女性統治官グギ、保安部のボスでいつもジャズを見張っているルーディなどの個性的な脇役もなかなかによく、さらにアクションの切れもいいから一気読み。
アンディ・ウィアーはWEBで公開した「火星の人」(映画化のタイトルは「オデッセイ」)で一躍有名になった人で、本書が2作目。作者はこの「アルテミス」を舞台にしたシリーズを考えているとのこと。それもまた楽しみだ。(早川書房 各640円+税)