「浮き世離れの哲学よりも憂き世楽しむ川柳都々逸」坂崎重盛著
川柳は俳句と同様に五七五だが、季語や切れ字などのルールに縛られず、自由な表現が許されるもの。都々逸は七七七五。和歌よりも少ない文字数の短詩型文芸のひとつで、主に人情・風俗をうたう俗謡を起源とするもの。その川柳と都々逸を紹介しながら、男女の行為や心理、また生きた人生哲学を味わうエッセー集である。
著者の坂崎重盛は、「東京本遊覧記」や「粋人粋筆探訪」などの著作を持つ人で、こういう案内の適任者といっていい。
重くなるとも持つ手は二人 傘に降れ降れ夜の雪
夢で見るよじゃ惚れよが浅い 真に惚れたら眠られぬ
一人笑うて暮らそうよりも二人涙で暮らしたい
惚れた数から振られた数を引けば女房が残るだけ
枕出せとはつれない言葉 そばにある膝知りながら
引用を始めていくときりがない。どれも説明抜きにわかる都々逸だ。すぐに情景が浮かんでくる。
本書で初めて知ったのは、NHKラジオに都々逸の番組があったこと。さらに、都々逸の表記を「どどいつ」とひらがなにした中道風迅洞という作家がいたこと。それは、都々逸をお色気、エロの世界からもっと世俗一般を表現する短詩型文芸に変えたいという意図があったことなど、そうだったのかということが次々に出てくる。
本書を読むと、都々逸をもっと知りたくなる。書店に走って関連書を買いたくなる。とりあえずは中道風迅洞の「新編どどいつ入門」と、吉川潮著「浮かれ三亀松」だ。(中央公論新社 1700円+税)