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坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

「オンナの値段」で見えてくる「オトコの値段」

公開日: 更新日:

「オンナの値段」鈴木涼美著 講談社/1500円+税

 キャバクラでいつも指名されている彼女たちは、自分たち男性客のことを本心ではどう思っているのか。月に1回出張先のホテルに呼ぶデリヘル嬢は、一体何を考えながら今の仕事をしているのか。気にならない男性はいないだろう。

 そんな知りたいような知りたくないような彼女たちの内面を、惜しげもなくさらしてくれるのが本書である。

 美容整形やブランド品のために、ソープに鬼出勤して稼ぎ続ける女性。デリヘルや交際クラブを掛け持ちして、お金を生まない隙間時間を少しでも減らそうと躍起になる女性。「元AV女優」という箔をつけるためにAVに出演し、中国人相手に「爆買い」ならぬ「爆買われ」されることをもくろむ女性。これまでの夜職の経歴を隠し、交際クラブで「プロ素人」として振る舞う女性。

 彼女たちにとって男性客は、通い詰めているホストクラブで高級ボトルを開けるため、あるいは脂肪吸引やヒアルロン酸注入を行うための「手段」でしかない。

 すがすがしいまでに即物的な彼女たちの本音を目の当たりにして、彼女たちに薄甘いロマンを投影している男性諸氏は、「知らなきゃよかった」と思うかもしれない。「だまされていた」と思うかもしれないのだ。

 しかし、彼女たちも決して完璧な存在ではない。一見すると狡猾、もしくは達観しているように見えつつも、期限付きの若さの中で、曖昧な不安や時間と必死に戦っている、たくましくもか弱い存在である。

 そう考えると、私たちも彼女たちも、制御不可能な欲望に追われて夜の街を迷走している「同志」だと言えるのではないだろうか。

 だとすれば、彼女たちの値段から見えてくるのは、「オトコの値段」=他ならぬ私たち自身の値段なのかもしれない。

【連載】下半身現代社会学考

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