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坂爪真吾

「新しい性の公共」を目指し、重度身体障害者への射精介助サービスや各種討論会を開く一般社団法人ホワイトハンズ代表理事。著書に「男子の貞操」(ちくま新書)、「はじめての不倫学」(光文社新書)など。

「何でも切れる刀」の切れ味に悪酔い

公開日: 更新日:

「フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか」香山リカ、北原みのり著/イースト・プレス1400円+税

 複雑化した現代社会では、分かりやすい敵が見えなくなり、善悪が曖昧になる。自分の生きづらさの原因が何なのか、誰にも分からない。

 そんな状況では、信じられるものは己の感情だけになる。感情の赴くままにマイノリティーの当事者(とされている人たち)に憑依し、「当事者は怒っている!」「私は当事者の怒りや痛みに寄り添っている!」と主張する人たちがネット上にあふれるようになる。

 確かにこの立場を取れば、どんな理屈や批判も一応はじき返せる。そして自分の「正義」も実感できる。マイノリティーの当事者に感情的に憑依することは、本人の生きづらさを緩和するだけでなく、「何でも切れる刀」=あらゆる相手を批判できる力を与えてくれるのだ。だがその切れ味に悪酔いしてしまうと、「切られた人たち」から多くの恨みを買うことになる。

 本書は、「性の商品化」と「表現の自由」といったテーマに関して、なぜフェミニストとオタクでは意見が噛み合わないかを論じた対談である。著者たちの議論では答えは出ていないが、答えは簡単で、フェミニストの側は「何でも切れる刀」の切れ味に悪酔いしているだけ。そして「切られた当事者」であるオタクの側は、怒りや憎しみといった負の感情をベースにフェミニストに粘着することで、自らの生きづらさを和らげているだけ。これだけの話だ。

 言うまでもなく、マイノリティーは誰かや何かを叩くための手段ではない。そして怒りや憎しみという負の感情では、社会は1ミリも良い方向には動かない。

 しかし、私たちは「当事者の怒りや痛みに寄り添っていること」「傷つけられた当事者であること」を印籠のように振りかざし、負の感情に踊らされながら、今日も明日もSNS上で誰かや何かを叩き続けるしかない。現代社会の性を巡る議論がなぜ不毛なのかを教えてくれる、貴重な一冊だ。

【連載】下半身現代社会学考

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