王朝的独裁国家の首領 「若き独裁者」金正恩の人物像
「金正恩」朴斗鎮著
いよいよトランプが直接会談を明言した金正恩。刈り上げヘアの独裁者の人物像に迫る。
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「首領絶対独裁体制」、それが北朝鮮の政治体制。政経軍すべての政策は首領の利益と権威を高めることが第一義。しかもその統治は世襲。つまり金正恩は「王朝的独裁国家」の首領なのだ。
その性格は「粗暴、キレやすい、誇大妄想的」。趣味は「粛清、人事刷新、サプライズ視察」。好きなものは「核兵器と長距離弾道ミサイル」とまるでマンガだが、これこそが北朝鮮のリアルなのだ。経済は首領の財布となる「党経済」、軍需の「第二経済」と続いたあと、国民の暮らしを豊かにする「第一経済」が来る。「第一」は明らかに名目だけだ。北朝鮮にも経済特区があり、金正恩と親しいカナダ人が来日してビール会社を誘致したらしいが、いまだ誘致実績はほとんどないという。それでも体制が維持できるのはなぜか。
その秘密が対米敵対外交。アメリカを敵に回すことで国内世論は固められ、特にトランプ相手なら同じレベルで丁々発止のやりとりになる。韓国の文在寅政権は融和主義で金正恩にとってはうれしい存在。平昌五輪に妹(金与正)を派遣したのはまさにその表れと北朝鮮ウオッチャーの著者はみている。(新潮社 780円+税)
「金正恩」五味洋治著
「世界の指導者の中で、金正恩は最もナゾに包まれている1人」と著者。生年月日はいまだに不詳。83年生まれとも翌年生まれともいわれ、子供は3人いるらしい。まだ少年だった90年代には母や兄と何度か日本旅行を楽しんでもいたという。
幼い頃から短気で忍耐に欠け、母親に叱られると口答えはしないものの、断食で抗議するなど強情なところが目立ったとか。東京新聞記者で、暗殺された金正男の単独インタビューをとったこともある著者は、独自の情報網で独裁者の過去をあばく。類書にない強みだ。脱北者情報による北朝鮮情勢から対トランプ関係まで幅広く目配りしている。(文藝春秋 1500円+税)
「テレビに映らない北朝鮮」鴨下ひろみ著
フジテレビで30年間、朝鮮半島報道に携わってきた著者が、テレビ放送ではわからない北朝鮮の深層をリポート。5年前、1度だけ金正恩にぶら下がり取材ができそうなチャンスがあったが、SPに阻まれ、以後は訪朝のたびに取材が厳しくなっているという。
父の金正日は外国旅行も列車だったが、正恩は飛行機好きで、自ら操縦かんを握る映像を公開している。2016年には航空ショーも開いて自慢の美人戦闘機パイロットも披露したが、国連制裁による燃料不足などで翌年は中止。映画好きの父が芸術振興を図ると自分はスポーツ強国の幻想を振りまく。種々のエピソードをちりばめ、北朝鮮相手の振る舞い方をいろいろと示唆している。(平凡社 860円+税)