「青空と逃げる」辻村深月著
本条力は、小5の夏休みを、母の早苗と2人、四万十川の岸辺で過ごしていた。東京育ちの力には、青空の下での川遊びやテナガエビ漁が珍しく、楽しい。母は食堂で働いている。
ある日突然、母は四万十を離れてどこかに逃げると言い出した。東京からの追っ手に居場所を見つかってしまったらしい。急いで列車に乗ったものの、行くあてはない。
母子で逃げる生活は、あの事故から始まった。有名女優が運転する車が深夜、事故を起こした。助手席には、舞台で共演することになっていた力の父が乗っていた。巻き起こる不倫疑惑報道、その後の有名女優の自殺、そして父の失踪。家族は壊れ、傷ついた母と息子は、それまでの生活を捨てて逃げた。
読売新聞に連載された長編小説の単行本化。四万十川から瀬戸内海の家島へ、別府から仙台へ。ロードムービーさながらに風景が変わり、方言が変わる。逃げる先々に、わけありの母子に手を差し伸べる人たちがいる。
母は、ありったけの力で息子を守ろうとした。かつて父と同じ劇団の女優だった母は、息子が知らない顔をいくつも持っていた。息子は、母と逃げながらさまざまな出会いを経験し、大きく成長する。でも、やっぱり、大好きな父に会いたい……。
壊れた家族は再生できるのか。逃げる生活が終わりに近づくにつれ、意外な真相が明らかになっていく。(中央公論新社 1600円+税)