「ラストレシピ」田中経一著

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 優れた音楽家には絶対音感の持ち主が多いという。ならば、「絶対味感」「絶対舌感」といったものもあるのだろうか。もしあるとしたら料理人にとっては格好の武器になるにちがいない。本書の主人公は、一度味わった味を必ず再現できる能力、絶対味感ならぬ「麒麟の舌」の持ち主だ。

【あらすじ】自分の味覚と料理の腕に絶対の自信を持つ料理人、佐々木充は東京・乃木坂に1日8人限り、1人4万円という高級日本料理店を開いた。当初は盛況だったものの、食材に金をかけすぎ、食べ歩きに使う経費が膨大だったことなどから、開店から2年ともたずに閉店。残ったのは多額の借金。やむなく始めたのが「最期の料理請負人」という仕事だ。

 死の間近な人の最期に食べたい料理のリクエストを受け、その人がかつて食した料理の味を忠実に再現する。報酬は100万円を超えることも。麒麟の舌を持つ佐々木だからこそ可能な商売だ。

 佐々木の新たな依頼人は中国料理界の重鎮、楊晴明。旧満州国時代にやはり麒麟の舌を持っていた天才料理人の山形直太朗と共に作り上げた、満漢全席の向こうを張る「大日本帝国食菜全席」を食べたいという。ただし春夏秋冬の4冊のレシピは手元になく、それを捜し出してほしいという。報酬は5000万円。それで借金を全額返済できる。佐々木は早速レシピ捜しを始めるが、レシピの背後には大いなる歴史の謎が待ち受けていた……。

【読みどころ】楊と山形がレシピ作りをしていた戦前の満州とレシピの行方を追う佐々木の現在が交互に織りなされ、「大日本帝国食菜全席」の秘められた謎が解き明かされていく。昨秋、嵐の二宮和也主演で映画された傑作歴史ミステリー。 <石>(幻冬舎 690円+税)

【連載】文庫で読む 食べ物をめぐる物語

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