「麒麟児」冲方丁著
慶応4(1868)年3月12日、西郷隆盛との会談を明日に控えた勝海舟は、ここまでの日々を思い起こしていた。
鳥羽・伏見の戦いに敗れ江戸へ逃げ帰った将軍慶喜は閑職に追いやっていた勝を呼び戻し、5万の大軍を率いて江戸に迫り来る官軍との和議交渉を勝に託した。その意を受けた勝は、東征大総督府下参謀の西郷との面談を求めるべく山岡鉄舟に書状を託し、その護衛として薩摩藩士益満休之助を付けた。対する西郷からの開戦回避の条件は、徳川幕府にとっては厳しいものだった。勝はもし戦が避けられない場合は、江戸の町を焼き払う焦土作戦も準備し、不退転の決意で明日の交渉に臨む覚悟だった――。
本書は江戸無血開城という歴史を画する事件を勝・西郷の2日間に及ぶ会談を中心に勝の視点から描いたもの。あらゆる策を講じて江戸での市街戦を避けようとする勝。勝の真意を測りながら互いが納得する妥協点を探る西郷。
虚々実々の駆け引きを将棋の名人戦のごとく、2人の内面に深く食い入り壮絶な心理戦を描き切った歴史ドラマ。
(KADOKAWA 1600円+税)