「崩壊の森」本城雅人著
主人公は東洋新聞の記者・土井垣侑。チェルノブイリ事故発生からちょうど1年後となる1987年4月26日に、特派員としてモスクワに赴任したところから物語は始まる。
当時のソビエト連邦は、ゴルバチョフによるペレストロイカ政策が進められていたものの、常にKGBが暗躍し、記者もソビエト政府の監視下にあった。当局から目を付けられないよう本社からは「スクープ禁止令」が言い渡される状況下で、許可された取材だけではソ連の宣伝活動にしかならないことに業を煮やした土井垣は、リアルな市井の人々の声を拾おうと町で夜な夜な行われているパーティーに顔を出すことに。しかし監視の目は常につきまとい、尾行や盗聴、家への侵入などの事態に直面する……。
「ミッドナイト・ジャーナル」で吉川英治文学新人賞を受賞した著者による最新作。
時代の激動期に立ち会った日本人特派員の目を通して、ペレストロイカ下のソビエトやベルリンの壁の崩壊などの歴史的瞬間や、報道人の在り方が描かれる。個性の強いライバル記者や、秘密ありげなモデル事務所の社長など、登場人物も魅力的だ。
(文藝春秋 1750円+税+税)