文庫で読む「お仕事小説」特集
「ビジネスウォーズ」江波戸哲夫著
長年同じ業界で仕事を続けていると、その業界ならではの当たり前に染まりがちだ。ちょっと別の畑から見てみたら、自分の世界の普通は普通ではないのかもしれない。そこで今回は、編集者、添乗員、水族館の飼育員、警察官、広告代理店の営業マンの5つのお仕事小説をご紹介! 文庫本でサクッと隣の事情を見てみよう。
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主人公は嵐出版社に長年勤めてきた大原史郎。社長の五十嵐岳人が編集長を兼務する経済誌「月刊ビジネスウォーズ」の副編集長として社長と二人三脚で雑誌を育ててきたのだが、社長が脳梗塞を起こして入院したことで事態が一変。社長の息子である隼人が社長に就任したことを契機に社長夫人が大原を閑職に追いやろうと画策する。
一時は退社を考えた大原だったが、自由に動ける立場を利用して中途半端になっていた重電メーカー元会長の失脚事件を徹底的に追いかけることを決意。しかし、追っていくうち、日本経済の暗部にたどり着いてしまう。果たして、その顛末は。
ヒット作「集団左遷」の著者による窓際からの起死回生の物語。経済編集者の視点から、日本の隠された一面を暴くストーリーにもなっている。
(講談社 740円+税)
「Iターン2」福澤徹三著
左遷された単身赴任先でヤクザから無理やり企業舎弟にさせられるという人生最大の危機に陥った広告代理店の営業マン・狛江を描いた前作「Iターン」に続く第2弾。今回、Q支店から本社復帰を遂げたと思った直後、今度はCMに起用していたアイドルのスキャンダル騒ぎに巻き込まれる。
責任を取らされる形で受けた辞令は、キャリア開発支援室担当課長。市場や顧客ニーズの動向を把握した斬新な営業戦略を立案するという建前の部署だが、実際は書類管理や備品点検などを押し付けられた追い出し部屋。断ったら居場所はないといわれ、泣く泣く異動した先では、思わぬ再会が待っていた……。
ドラマ化もされた人気シリーズ待望の続編。理不尽さに翻弄されながら、もがき続ける主人公の運命に、ハラハラさせられること必至。
(文藝春秋 680円+税)
「水族館ガール6」木宮条太郎著
市役所勤務だった嶋由香が、「アクアパーク」イルカ課への出向を命じられて飼育員として奮闘する、人気の水族館ガールシリーズ第6弾。今回、由香は今まで扱ったことのなかったアシカのナイトライブに初挑戦。加えて、イルカのルンの妊娠も発覚し、一般向けに出産の模様をリアルタイムで公開しつつ、専門家には出産するイルカの生理的なデータを提供するイルカ出産プロジェクトも発動し、前代未聞の2つのプロジェクトに悪戦苦闘する由香が描かれている。
アシカとイルカの性質の違い、妊娠したイルカの体重管理や、つわり、赤ちゃんの生死を左右する授乳トレーニングなど、水族館ならではの豆知識も満載だ。
生き物のあるがままの姿を尊重するアクアパークの挑戦を通して、水族館の舞台裏を知ることができる。
(実業之日本社 667円+税)
「再雇用警察官」姉小路祐著
大阪府警の警察官として定年を迎えた安治川信繁は、雇用延長警察官として生活安全部消息対応室への勤務を命じられた。消息対応室とは、自発的に失踪したのか事件性のある行方不明なのかが不明な案件を捜査するための部署。そんな消息対応室に、初めての依頼が入った。
夫がいなくなった妻からの依頼で、当初、自発的な失踪と判断されていたが、自宅に脅迫電話があったと妻が訴えたため、消息対応室にお鉢が回ってきたのだ。しかし脅迫電話のかかってきた形跡が見当たらなかったことから、やはり自発的な失踪だと思われた。ところが、失踪した男の健康保険証を持つ男が殺害された姿で発見されてしまう。果たして事件の真相は?
長年の人脈と自由になった立場を生かして、捜査に挑む主人公の活躍ぶりが頼もしい。
(徳間書店 730円+税)
「添乗員さん、気をつけて」小前亮著
国枝耕介は、「プロテン」といわれる派遣の添乗員。年間200日以上仕事で世界を飛び回っている耕介の元には、さまざまな依頼が舞い込む。一番のお得意さまである東栄旅行は、アジアのマイナーな国や地域、中東、中南米、アフリカなど、一般の旅行客には縁遠い秘境ツアーのパイオニアだ。
しかし、その旅行の管理を担当している里見日向子は毎回、耕介に訳アリのツアーばかりを依頼してくる。離婚寸前のカップルが参加するウズベキスタン・ツアー、一般人を装う覆面作家を案内するベリーズの遺跡旅行、自殺志願者のコミュニティーで究極の自殺の地として案内されていたエチオピアの火山ツアーなど、出発前から心騒ぐツアーを耕介はどう切り抜けるのか。
非日常が日常という添乗員のお仕事事情をコミカルに描いている。
(角川春樹事務所 760円+税)