バックパッカーから車いすまで おもしろ旅の本特集
「地図にない国を行く」宮崎正弘著
旅の醍醐味とは、見知らぬ土地での未知なるものとの遭遇にある。それは風景であったり、匂いであったり、人であったり。しかし、現代人はいろいろなものに縛られ、気ままに旅をする自由もない。そこで、羨望とちょっとの嫉妬を交えながら、人々は他人の旅本に自らを重ね、空想の旅に出る。今週は、そんな「読む旅」を楽しませてくれる飛びっ切りの5冊を紹介する。
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ガイドブックで紹介されない国や辺境の地などを旅するルポルタージュ。
まずは「貝殻」が今も貨幣として通用している地域があるというパプアニューギニアへの旅。首都ポートモレスビーは、昨秋のAPECの開催地で、中国資本によって近代的ビルの建設ラッシュが続いている。だが、日本軍戦死者の慰霊のために飛んだラバウル空港では搭乗券が手書きで、「石器時代と超現代が奇妙に同居している不思議な空間」とこの国を表現する言葉に納得。貝殻通貨が通用するトーライ族出身のガイドによると、本当に今も使われているという。
その他、ミャンマーの奥地やラオス、カンボジア、マレーシアのボルネオ島など。各地を巡り、世界を塗り替える勢いで進出する中国資本の行状を報告しながら、日本の行く末に思いを馳せる。
(海竜社 1600円+税)
「ダリエン地峡決死行」北澤豊雄著
世界で最も過酷な国境といわれるコロンビアとパナマの国境地帯「ダリエン地峡」の踏破に挑む冒険ノンフィクション。
密林に覆われたダリエン地峡には、密入国者が利用する獣道のようなルートが存在するだけ。ゲリラやマフィアが潜伏しており、外国人の誘拐事件が多発している。ボゴタでスペイン語を学んでいた著者は、2011年9月、ガイドのスミスの案内で、ダリエン地峡の入り口のひとつアカンディから国境を目指す。
しかし、すぐに政府軍によって保護されてしまう。当局によると、スミスは著者をゲリラに売るつもりだったという。それでも諦め切れぬ著者は、知り合った先住民クナ族のエドガルの手引きで再び国境を目指す。2年がかり、3度目の挑戦で、ついに徒歩でパナマへの国境を踏破した手に汗握る冒険譚。
(産業編集センター 1100円+税)
「旅の窓からでっかい空をながめる」椎名誠著
世界中を旅してきた作家が、旅先で撮影した写真を紹介しながらその思い出をつづったフォトエッセー。旅先でその日の宿が決まったら、続いて市場に必ず足を運ぶ。途上国の市場で共通して気持ちの和む風景は、必ず犬が数匹うろついていることだという。日本では全く見かけなくなったが、こうした市場で人間と犬双方の「こともなげな相互助け合い」が成立している風景に羨ましさを感じる。
その他、ラオスの開墾中の畑でたびたび見かけた高床式の休憩小屋に憧れたり、南米パラグアイでは大河パラナ川の下流にある川中島のひとつ、毒蛇だらけのフェガチニ島で暮らす裸足の女の子たちに、置かれた立場からくる運命というものの残虐性を感じるなど。著者ならではの視点で語られる風景に身を任せ、ひととき日本にいることを忘れる。
(新日本出版社 1600円+税)
「一度死んだ僕の、車いす世界一周」三代達也著
18歳のときのバイク事故で車いす生活になった著者は、28歳のときにルーティン化した日常に嫌気が差し、世界一周の旅に出る。介助者なしで270日間、23カ国42都市を巡った旅の記録。
ロンドンから始まった旅だが、パリで障害者支援団体を名乗る女性たちから有り金を巻き上げられる詐欺に遭う。1日でパリが嫌いになったが、そのことを知ったホテルのスタッフの粋な計らいで再びパリの印象が変わる。
インドでは謎の発熱で一時帰国を余儀なくされたり、イースター島ではその後の生き方を左右するような出会いと別れを経験したりと、アクシデントをも楽しみ、乗り越えながらの旅をつづる。
世の中のほとんどのバリアーは、実は人間の力で越えられることを実感したという著者が、旅に出る勇気をくれる。
(光文社 1500円+税)
「旅がなければ死んでいた」坂田ミギー著
広告制作会社で社畜のように猛烈に働いてきた著者は、31歳で吐血したのを機に「日本的価値観に忠実に生きてきたけど、どうやらこのままじゃ自分は幸せになれない」と思い至り、価値観を変えるために世界一周の旅に出ることを決意。出発の数日前には、恋人にフラれ、傷心のまま日本を飛び立つ。
モンゴルの辺境で伝統的な暮らしをする遊牧民ツァータンに会いにいくため、車と馬を乗り継ぎ、お尻の皮を犠牲にしながら2日がかりで出掛けた冒険行や、世界中から集まった人々が全裸で過ごすギリシャのガヴドス島でのテント生活、100万人が暮らすといわれるケニアのスラム・キベラ、そして旅の最後、ロサンゼルスで見つけた新たな恋まで。旅によって生きる力を得ていく女性バックパッカーの奇想天外の旅。
(KKベストセラーズ 1250円+税)