文庫書き下ろし 最新時代小説特集
「姉さま河岸見世相談処」志坂圭著
ページを開けば、あっという間にタイムスリップしてその世界に浸れるのが時代小説の面白さ。今回は、粋に相談事を解決する出戻り花魁、万葉集に魅せられた町の文学少女、陰謀だらけの幕末を生き抜く侍、16歳のおてんば姫、刀を包丁に持ち替えた凄腕料理人が登場する5つの書き下ろし時代小説をご紹介!
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吉原の花魁として活躍した後に身請けされたものの、わけあって吉原の地に舞い戻り、千歳楼の主となった七尾は、年齢不詳の美しさと気が強いことで有名。本業はソコソコだが、女郎の悩み相談にのることが多く周囲からは「七尾姉さん」と呼ばれている。
ある日、手伝いに来ている少女・たまきが、黒焦げの死体が見つかったと言って駆け込んできた。落ちていた象牙の櫛から、焼死体が玉屋の花魁・八汐らしいということが判明した。七尾がたまきに下手人を探らせていた最中、さらに仲見世の座席持ちの女郎・三芳の焼死体まで発見される。果たして事件の真相は……。
酸いも甘いも噛み分けた姉御肌の元花魁・七尾姉さんによる、大人の推理劇。講談調の語り口に酔わされつつ、クールな姉御の魅力にハマること必至。
(早川書房 760円+税)
「たまもかる 万葉集歌解き譚」篠綾子著
日本橋伊勢屋の娘・しづ子は、和歌好きが高じて賀茂真淵の弟子となった文学少女。講義を聞くため、賀茂家に出かけたしづ子は、賀茂家に泥棒が入ったことを知らされる。真淵が言うには、金目のものは全く盗まれておらず、蔵書が荒らされていたらしい。しかし本当に狙われていたのは、数日前に田安家に行った際に他の人のものと間違って取り違えてしまった「万葉集」を狙ったものではないかというのだ。そこには、ひらがなだけで記された万葉集12首と、干支と漢数字だけで構成された暗号のような符丁が残されていた。しづ子は、万葉集に詳しい占い師・葛木多陽人の力を借り、真相解明に乗り出すのだが……。
万葉集歌解き譚シリーズ第2弾。万葉集の和歌をじっくり味わいつつ、謎解きが楽しめる。
(小学館 690円+税)
「和三郎江戸修行 愛憐」高橋三千綱著
物語は、主人公・岡和三郎が越前野山から江戸に出てきた沙那と再会するところから始まる。
沙那の兄・原口耕治郎は、藩命で江戸に向かう途中に闇討ちに遭って療養中だと聞いていたのだが、沙那によれば兄はすでに亡くなっており、闇討ちに遭ったのは不名誉なことだとして死因は伏せられているのだという。さらに、沙那は兄の仇をとったのちに婿をとって原口家を継ぐことになり、しかも和三郎は婿になるのは自分だというのだ。和三郎は、この話には裏があるのではと思い始める……。
「脱藩」「開眼」に続く、和三郎江戸修行シリーズ第3弾。剣術修行に出よという表向きの命を受けて江戸に来た和三郎が、土屋家の世継ぎを守るという密命を果たすべく奮闘する。数々の陰謀を乗り越え、成長していく姿が描かれている。
(集英社 720円+税)
「姫様お忍び事件帖 わらわがゆるさぬ」沖田正午著
主人公は、武州槻山藩大谷家の嫡男忠信のもとに嫁いだ鶴姫16歳。侍女相手にお菓子を賭けた丁半賭博をするほど暇を持て余していたが、ある日、鶴姫のもとに江戸家老の山脇大膳が鶴姫の幼馴染み・小坂亀治郎を伴ってやって来た。なんでも武州槻山藩主大谷忠次が、幕府から2万両の普請を命じられたため、鶴姫の実家・清水家の清水斉順の力を借りて、将軍家斉に話を通してもらいたいとのこと。
安請け合いした鶴姫は、亀治郎と一緒に遠足気分で実家に向かったが、斉順からは体よく断られてしまった。焦った鶴姫は材木問屋である侍女の実家に頼みに行くのだが、そこで大事件に巻き込まれてしまう……。
姫様お忍び事件帖シリーズ最新刊。主人公が、持ち前の天真爛漫さで事件を解決に導くストーリー展開が軽快で楽しい。
(徳間書店 690円+税)
「新春新婚(にいめとり) 小料理のどか屋 人情帖30」倉阪鬼一郎著
かつて大和梨川藩の侍だった時吉は、刀を包丁に持ち替えて修業に励み、料理人となった。それから時吉は師匠である長吉の娘・おちよと夫婦になり、旅籠付きの小料理屋「のどか屋」で働きつつ、店の跡取りとなる息子・千吉にも恵まれる。
そんな千吉も早いもので年明けには17歳。店の呼び込みをしていた娘・おようと祝言を挙げることになっている。新春を待ち望みながら、時吉は今日も料理の腕を振るう。
ロングセラーの小料理のどか屋人情帖シリーズの最新刊。年越し蕎麦に豆腐飯、正月の昆布巻きや黒豆や田作りなどが詰め込まれた折り詰め、海老芋の煮合わせ、平貝の昆布締めなど、季節感たっぷりの日本料理が多数登場。物語の端々に登場する俳句も読みどころ。食を囲む人々の温かな交流がほっこりさせてくれる。
(二見書房 658円+税)