IT企業の光と闇を知る本特集
「巨大IT企業クラウドの光と影」ロブ・ハート著 関美和訳
もうそれがない世界など想像すらできないほど、生活の隅々にまでインターネットの恩恵が広がった現代社会。一方で、一部のIT企業は国境を越え、大国以上の存在感を放つほどに巨大化している。今週は、そんな巨大IT企業の光と闇、そしてIT産業に関わる人々にスポットを当てた本を特集する。
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従業員3000万人の巨大IT企業クラウドを一代で築いたギブソンは、がんで余命1年と宣告される。後継者指名に注目が集まるが、ギブソンにもまだ結論が出ていない。
パクストンは、2年前に起業した事業を取引先だったクラウドによって廃業に追い込まれた。しかし、生きていくためクラウドに就職し、街から離れたマザークラウドに入所する。職住一体のこの施設では、腕時計型のクラウドバンドですべてが管理される。かつて看守だったパクストンは、保安警備の部署に配属される。
一方、新入社員のジニアは、配送センターの仕事の合間にマザークラウドのエネルギー施設への侵入方法を考える。ジニアの本当の仕事は企業スパイで、身分を隠して潜入したのだった。
(早川書房 2800円+税)
「ネット興亡記 敗れざる者たち」杉本貴司著
インターネットという新産業創成に関わった時代の寵児たちの物語。
サイバーエージェント創業者の藤田晋は、就職したインテリジェンスの社長・宇野康秀の資金援助を得てわずか1年で独立。クリック保証型広告システムに目をつけ、顧客だったオン・ザ・エッヂの堀江貴文に技術協力を依頼。ヒット商品を手にした藤田は、創業からわずか2年で上場を果たすが、その後に株価が急落。調達した資金を狙って村上世彰が率いるファンドが同社株を買い集めていることが判明する。苦境に陥った藤田に助けの手を差し伸べたのは楽天の三木谷浩史だった。
ほか、日本初のインターネット商用接続事業を始めた鈴木幸一からLINE誕生秘話まで。今や必需品のサービスを生み出した若者たちの壮絶な戦いを描く。
(日経BPマーケティング 2000円+税)
「GAFAという悪魔に」ジャック・セゲラ著 佐藤真奈美、小田切しん平訳
今や国家を超える存在になりつつあるGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)。そんな巨大IT企業の真の狙いと戦略を分析、その波にのみ込まれないようにするにはどうすべきかを考察したリポート。
グーグルはウェブ検索の90%、アマゾンがクラウドの30%を独占し、フェイスブックとグーグルでネット広告の全体の70%を独占。その規模は2兆6000億ドルにも及ぶ。
私たちの日常生活を侵略する彼らの目的は、エスプリ(精神)を征服して、物品の購入、レジャー、仕事、思考に関して依存的な精神状態をつくり出すことだと指摘。GAFAが人間性の喪失をもたらすと警告し、テクノロジーは人間に仕えるべきで、人間がテクノロジーに仕えるのではないと、レジスタンスの戦いの必要性を説く。
(緑風出版 2200円+税)
「反省記」西和彦著
パソコン黎明期を駆け抜け、時代の風雲児となった著者の回顧録。
大学在学中の1977年、株式会社アスキー出版を創業した著者は、翌年、米国の専門誌に載っていたBASICに関する小さな記事に注目。その日にマイクロソフトのビル・ゲイツに国際電話をかけ面談の約束を取り付ける。BASICを改良すれば自らが思い描く理想のパソコンを作ることができると確信したからだ。東アジア市場の独占販売権を得た氏は、ビルの右腕としてマイクロソフトの副社長にまでなるが、1985年に大げんかをして同社を去ることに。さらに、史上最年少で上場したアスキーも追放されてしまう。
がむしゃらに理想に向かい、信念を貫いてきたその人生に後悔はないというが、何がいけなかったのか、その半生を振り返る。
(ダイヤモンド社 1600円+税)
「アンチソーシャルメディア」シヴァ・ヴァイディアナサン著 松本裕訳
世界27億人が利用するフェイスブック。CEOザッカーバーグは「世界をよりオープンにして人々のつながりを強める」社会的使命を帯びた会社だと宣言する。だが、著者は人々を結び付けるのと同じくらい分断を深め、民主主義の崩壊にこれほど貢献した企業もないと指摘する。
その弊害とは、「誤解を招く情報の安易な拡散」「感情に訴えるコンテンツの蔓延」「フィルターバブル(各利用者が見たくないような情報を遮断する機能=自分が見たい情報しか見えなくなる)」が挙げられる。
同社がどのようにユーザーを監視・記録しているのか具体的に解説。英国のEU離脱国民投票や米国の大統領選などを取り上げ、心を乱す破壊的な言葉や画像を拡散して世界中のナショナリストや権威主義者に力を与えているソーシャルメディアの罪を告発した警世の書。
(ディスカヴァー・トゥエンティワン 2300円+税)