アフターコロナの世界を生きる本特集

公開日: 更新日:

「コロナ後の世界」筑摩書房編集部編

 簡単には収束しそうもない――。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、誰もがそう感じていることだろう。しかし、物事には必ず終わりがある。その時にどんなことが起こるのか、私たちは備えておくべきだ。今回は、コロナ後の世界を生きるための示唆に富んだ5冊を紹介しよう。



 免疫学や社会学などの専門家12人が、コロナの影響と未来について徹底検証する本書。

 免疫学者の小野昌弘氏は、安全なワクチンの早期完成は困難であると言及。そのため、コロナ時代の終焉も曖昧になる可能性が高いとしている。感染拡大をどこまで許容するか、国によって大きく異なる可能性もある。感染リスクを低く見積もることで集団免疫が形成されればよいが、その見通しは不透明だ。

 国による対応策が異なれば、レベルが一致しない国との交流は困難になる。このような分断が国際政治における火種にならないとも限らないとしている。

 社会学者の宮台真司氏は、安倍政権による「日本モデル」の実態を暴きながら、わずかな明るい兆しについても言及。それは安倍政権を見限り独自の方針を打ち出す自治体が登場したこと。今後は、自らの地域を自らの手で守ろうとする自治体と、既得権益保持にいそしむ自治体が二極化すると指摘している。

(筑摩書房 1500円+税)

「コロナと生きる」内田樹、岩田健太郎著

 現代思想と感染症の第一人者が、コロナ時代の生き方を指南。

 感染拡大の一番の原因は、同調圧力であると岩田氏。みんながひとつの場所に集まるから感染が広がる。逆に言えば“人と違うこと”をやり続けていれば感染リスクも下がるということだ。

 ところが、多くの日本人は人と違うことに耐性がない。かつて岩田氏は、災害時の避難所の感染症対策として半数をホテルに移動し避難所の密を避ける提案をした。ところが、一部の人だけがホテルに行くのは許せないという声が出るはずだとして、却下されたのだという。日本はもともと同調圧力の強い社会だったが、誰かが“いい思い”をするくらいなら、均質化した方がマシというマインドには危機感を覚えると内田氏。感染症対策に有効な“ばらける”ことを目指し、人と違うことをして暮らすというライフスタイルの転換が必要だと述べている。

(朝日新聞出版 810円+税)

「コロナ後の世界を生きる」村上陽一郎編

 コロナ後の世界について、24人の識者が提言。

 建築家の隈研吾氏は、コロナ後の建築・都市づくりは「ハコからの脱却」だとしている。コロナ以前、我々はハコこそが効率がよいとされ、鉄のハコに乗って移動し、超高層ビルや大工場などのハコに出勤し、密を強要されていた。

 しかし、実はハコに閉じ込められなくても効率的に仕事ができるIT技術を我々は手に入れていた。それがコロナ禍でクローズアップされ、ハコを出て仕事を行う流れが急速に進んだ。コロナ後の建築は、より重装備なハコをつくって無菌の世界を目指すのか、あるいは、図らずも隈氏が手掛けた国立競技場のように空に開かれた“庭”を目指すのか、二択を迫られるとしている。

 他にも、漫画家のヤマザキマリ氏によるイタリアから見た日本の推察だらけのコロナ対策、地域エコノミストの藻谷浩介氏による伝統回帰への道など、有用な示唆が満載だ。

(岩波書店 900円+税)

「ポスト・コロナ」廣田尚久著

 コロナが収束した暁には、経済はV字回復するのか。それは、収束の時期にかかっていると本書は考察している。

 ハーバード大学の研究では、2022年までは外出規制を断続的に続ける必要があるとしている。来年オリンピック開催などと言っている場合ではなく、長期戦を前提に考える必要があるということだ。

 こうなると、家に閉じこもるストレスにより人々の精神は、むしばまれる。すでに家庭内暴力などの問題が表面化しつつあるが、コロナ禍後はまず精神面のダメージを回復する取り組みを行わなければ経済面の回復は難しい。

 さらに、コロナ禍が長引いて先進諸国のどこかでハイパーインフレーションが起きたり、雇用契約が危うくなるなどして資本主義が衰退する可能性も否定できないと本書。その場合、政府が国民生活に最低限必要な現金を支給するベーシックインカムの道も模索する必要があると説いている。

(河出書房新社 1200円+税)

「地方に住んで東京に通う コロナ時代の新しい暮らし」森民夫、佐藤俊和著

 テレワークが普及する中、地方に住んで月に数回東京に通勤するというライフスタイルが選択肢のひとつに躍り出た。本書では、前長岡市長と「乗換案内」で知られるジョルダン創設者が、テレワークの未来と可能性について探っている。

 在宅が増えると定期券が不要になるが、交通手段の支払い等をその都度行うのは面倒だ。そこを逆手に取って利用できるサービスが「MaaS」であるという。

 これは「Mobility as a Service」の略語で、フィンランドで誕生。飛行機、電車、バス、タクシー、レンタサイクルなど、乗り物すべてのルート検索から支払いまでをシームレスにつなぐサービスだ。ジョルダンでは2020年7月に大阪府とMaaS分野における協業の協定を結び、新しい働き方をバックアップする取り組みを始めているという。

 長岡市の「空き家バンク」や移住相談センターなど自治体の取り組みも紹介。働き方を変えたい人は必読だ。

(悟空出版 900円+税)

【連載】ザッツエンターテインメント

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動