「臨床の砦」夏川草介著
夕刻の発熱外来に「いや、それは無理ですよ。うちだってもう限界なんですから」という声が響いた。信濃山病院は地域で唯一の感染症指定医療機関だが、病床は200床未満で、呼吸器や感染症の専門家はいない。保健所の要請に、検査はできるが入院は無理だと医師が答える。
カラオケ店でクラスターが発生。40度を超える熱で苦しんでいるというので、やむなく2人を受け入れることに。コロナの感染者は増え続け、死者は56人になった。病院は既に医療崩壊状態なのに、政府は「緊急事態宣言発出を検討中」と言うだけだ。内科医の敷島寬治は、医師の精神はそろそろ限界に近くなっていると憂慮する。
命がけでコロナに立ち向かう医療現場を描くドキュメント小説。
(小学館 1650円)