「噴怨鬼」高橋克彦著
「噴怨鬼」髙橋克彦著
仁和4(888)年の暮れ、陰陽寮の頭(かみ)を務める弓削是雄の屋敷で、陰陽生の紀温史(きのあつし)が護摩壇を調えていた。是雄が赴任していた陸奥の鎮守府から連れ帰った淡麻呂という子どものもつ不思議な力を試そうというのだ。
術士、蘆屋道隆が、伴大納言を名乗る鬼と出会ったという男を連れてきた。伴大納言は20年以上前に応天門の変を引き起こしたといわれている人物だ。火付けの罪で流罪となり、伊豆で死んだが、怒りのあまり噴怨鬼となってこの世に舞い戻り、疫病をまき散らしているという。
是雄が大呪を唱え、道隆が連れてきた男の顔を紙の人形でなでると、男は苦悶の表情を浮かべ、泡を吹いた。次に淡麻呂の体を人形で拭い、「この者の見聞きしたものすべてを依り代に移し賜れ」と唱えると、是雄は眩しい光に包まれた。
妖異が跋扈(ばっこ)する時代を舞台に、強大な権力と闘う陰陽師を描く歴史小説。
(文藝春秋 1980円)