「布武の果て」上田秀人著

公開日: 更新日:

 物語の舞台は、交易による利益によって自治を貫いていた堺。三好一族の勢力下で守られていた商人たちは、永禄11年9月に織田信長率いる上洛軍によって難攻不落といわれていた観音寺城が落とされ、六角氏が敗退し三好三人衆が本国阿波に逃げ帰ってしまったことを知り動揺する。

 堺湊に納屋と呼ばれる蔵を持ち、交易に大きな影響力がある納谷十人衆と呼ばれる豪商の面々である今井彦八郎、魚屋與四郎、紅屋宗陽らが、今後の方針を決めるべく会合を開く。従来通り、三好の庇護の下にとどまるか。それとも足利義昭を奉じた織田信長につくべきか。情勢を見極める間もなく、このままでは堺が潰されると察した今井彦八郎が動いた結果、信長側につくことが決まり、今井、魚屋(のちの千利休)、津田宗及は信長の茶会の差配をする茶堂衆としての役割を命じられる。

 そして、茶室で信長の意向や情勢を把握できるようになった彼らは世の中の動きに影響力を増していく……。

 天下統一を掲げる信長の躍進から本能寺の変に至るまでの経緯を、商人の目線から描いた歴史小説。思いもかけない本能寺の変の真相が興味深い。

(集英社 1980円)

【連載】週末に読みたいこの1冊

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇