「布武の果て」上田秀人著
物語の舞台は、交易による利益によって自治を貫いていた堺。三好一族の勢力下で守られていた商人たちは、永禄11年9月に織田信長率いる上洛軍によって難攻不落といわれていた観音寺城が落とされ、六角氏が敗退し三好三人衆が本国阿波に逃げ帰ってしまったことを知り動揺する。
堺湊に納屋と呼ばれる蔵を持ち、交易に大きな影響力がある納谷十人衆と呼ばれる豪商の面々である今井彦八郎、魚屋與四郎、紅屋宗陽らが、今後の方針を決めるべく会合を開く。従来通り、三好の庇護の下にとどまるか。それとも足利義昭を奉じた織田信長につくべきか。情勢を見極める間もなく、このままでは堺が潰されると察した今井彦八郎が動いた結果、信長側につくことが決まり、今井、魚屋(のちの千利休)、津田宗及は信長の茶会の差配をする茶堂衆としての役割を命じられる。
そして、茶室で信長の意向や情勢を把握できるようになった彼らは世の中の動きに影響力を増していく……。
天下統一を掲げる信長の躍進から本能寺の変に至るまでの経緯を、商人の目線から描いた歴史小説。思いもかけない本能寺の変の真相が興味深い。
(集英社 1980円)