「102歳の医師が教えてくれた満足な生と死」奥野修司著
「102歳の医師が教えてくれた満足な生と死」奥野修司著
今から50年前、高知県佐賀町にひとりの医師が赴任した。その名は、疋田善平。1921年に生まれた疋田は軍医の道に進み、終戦後は国立京都病院で結核患者の治療にあたった。この経験から予防医学を志した彼は、小規模の自治体を探し、佐賀町に行きついた。本書は、疋田を長年取材してきた著者による医療ルポルタージュだ。
疋田は、患者の自宅や集落全体を病室と捉えて往診し、手に負えなければ専門医につなげることで総合病院相当の医療を提供する広域総合病院構想を掲げた。さらに健康出前教室、病歴・家族歴から趣味嗜好まで記したカルテ作成、家でのリハビリ指導などにより、寝たきり老人が激減。国民健康保険料を下げることにも成功した。
疋田が目指すのは、他人の目から見て尊厳を失わないための「尊厳死」ではなく、本人が満足して死ぬ一人称の「満足死」だ。彼は、満足して死を迎えるためには、どう生きるかが重要であり、死ぬまで元気な人は最後まで働き続けた人に多いと語る。
著者は疋田自身の長寿生活も紹介しながら、高齢化時代の生と死の在り方について考察している。
(松柏社 1760円)