「ロバのスーコと旅をする」高田晃太郎著
「ロバのスーコと旅をする」高田晃太郎著
旅をしてあとに残るのは、屋台のおばちゃんとの何げない会話やバスターミナルにいた猫の記憶だ。世界を知りたいと思って出かけるけど、結局拾ってくるのはカケラだけ。本も似たようなもんで「すごい本を読んだ!」と興奮しても肝心なことはすぐ忘れて、ささやかな断片のエピソードだけがずっと残る。そんな頼りない読書スタイルですが、本で世界を旅していきます。よろしくお付き合いくださいませ。
初回に取り上げるのは、風変わりだけど読み応えたっぷりの紀行文。新聞記者をしていた青年が会社を辞めて放浪の旅に出る。そこまでは類型がありそうだけど、著者が選んだのはロバと共に歩く旅だからぶっ飛んでいる。
まずいいロバを探して買い求めてから旅がスタート。相棒となったロバの背に荷を積み、連れ立って野を行き山を行くのだ。おいしい草を見つけるとロバはいきなり食事を始める。かわいいメスがいると恋に身もだえする。そんなマイペースなロバとの旅。なんて手間のかかる、なんて優しくて自由な地球の歩き方だろう。
しかし、本書から吹いてくるのはほのぼのした風だけではない。たとえばイランの人はロバ連れで歩く日本人にとても親切だ。お茶を飲んでいけ、メシを食っていけ、泊まっていけと声がかかる。でも日本人と顔立ちが似ているアフガニスタン人(ハザラ人)に間違えられると石を投げられる。イランには大量のアフガニスタン難民が流入して社会問題になっているのだ。あぁ、相手を属性で値踏みするのが人間だ。自分も人間だからうなだれる。ロバはそしらぬ顔で風に吹かれている。
(河出書房新社 1782円)