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井上理津子ノンフィクションライター

1955年、奈良県生まれ。「さいごの色街 飛田」「葬送の仕事師たち」といった性や死がテーマのノンフィクションのほか、日刊ゲンダイ連載から「すごい古書店 変な図書館」も。近著に「絶滅危惧個人商店」「師弟百景」。

ふげん社(目黒)「選書の基準は時代が変わっても座右の書になり続ける本ですね」

公開日: 更新日:

 アンティークな一軒家。ガラスドアを開けると、左にコーヒーカウンター、右に木製階段。温かい明かりを放つ奥の部屋に本が並んでいるのが見える。

 新富町にあった頃、何度か伺ったが、ここ目黒へ2020年に移転後、初訪問。

「移転後すぐコロナ禍で大変でしたが、なんとか」と代表の渡辺薫さん。渡辺さんが3代目社長を務める渡辺美術印刷(さいたま市)の一部門で、写真集やアート本に強いブックカフェだ。推定15坪に6000冊。

 ラックにA5判の分厚い雑誌「写真」4号がささっていた。2970円、初見。ページをめくる。北海道の山中の露天風呂あり、超ビキニと派手なタトゥーのカップルあり。シズル感全開の写真ばかりだ。

「『アサヒカメラ』と『日本カメラ』が休刊になり、写真家が発表する媒体を失って。それではと去年からウチから出すことにしたんですよ」

「写真」はふげん社刊だったのだ。すごいことをおっしゃると思いきや、「ふげん社写真賞」も22年から始めた。グランプリ受賞作は写真集にすると。

アンティークな一軒家に写真集やアート本がズラリ

 本棚に囲まれ、8人がけテーブル2つ。コーヒーカップ片手に読書中の人がこのとき5人。邪魔しないように、ゆるゆると一回り。「時代が変わっても座右の書になり続ける本」が選書の基準とのことで、目が留まったのはランボー、ヘミングウェーに、寺山修司、内田樹、小川洋子などなど。

「でもやっぱり写真集を見たいな」と呟いたら、渡辺さんの娘でディレクターの関根史さんが、左手奥に案内してくれた。あるある。たっぷりある。懐かしいな。甲斐扶佐義、北井一夫に手を伸ばそうとしていると、「これ、お薦めです」と渡辺さんが棚から抜いたのが、佐藤信太郎著「非常階段東京」(青幻舎 4180円)。

「ロードでも屋上でもない、非常階段という微妙な高さから、街を俯瞰して撮っているんですね」って、これたまりません。ビルの窓という窓にドラマがありますよーみたいな。しかも、江東区も丸の内も。全ページとも好きになった。

◆目黒区下目黒5-3-12
/JR目黒駅からバスで5分、元競馬場前下車すぐ/℡03・6264・3665/12~19時(土・日曜18時まで)、月曜・祝日休み

オススメの1冊

「Frozen arethe Winds of Time」王露著

「中国人の若手写真家、王露さんの初の写真集です。故郷の太原は高層ビルが建つなど急激に近代化の波が押し寄せている町なんですが、住む人たちの心は変わらないという対比。さらに王さんの父が交通事故で脳に重い障害を受け、変わっていく家族の様相をもカメラが捉えています。テキストは日本語、中国語、英語で収録。町というものと家族に目が離せなくなりますよ」

(ふげん社 6600円)

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