フラヌール書店(西五反田)大型書店では目に留まらない本が目白押し
「フランス語で“考えを巡らしながら散歩する人”の意味。19世紀の末、近代化が押し寄せるパリの街を歩きながらフラヌールの意味を考察した哲学者ベンヤミンを学生の頃かじって、いつかこの言葉を使ってやろうと思ってたんです」
アンティーク風手作りの木の本棚に並ぶ数々の本が、店主・久禮亮太さんがそう話すのを聞いてうなずいているような気がする。今年3月にオープンした、いわゆる独立系書店だ。
開店1時間後の訪問で、久禮さんは奥のカウンターで、推定100冊以上の本と格闘中。新入荷本ですか?
「ええ。昨日、おとといと連休したので今朝は3日分届いた感じですね」
久禮さんはあゆみブックス店長を経て、神楽坂や小石川の本屋の選書などを担当してきた。売り上げスリップに日付などを書き込む独自の方法を品揃えに反映させている人で、その作業の最中でもあったのだ。
向かって左側が文芸・人文書、右側が“暮らし”の本。「とはいえ、ジャンルというより、ロングセラーになりそうなもの中心」とのこと。大きな書店では私などまず目に留まらない本が目白押しだ。平台に隣り合う、女子パウロ会刊「時間について100の言葉」、鷲田清一著「『待つ』ということ」、それにP・コラード著「瞑想を始める人の小さな本」を少々立ち読みさせていただき……。
店内の一角にある小部屋をのぞくと…
あら。店内の一角に2畳くらいの「小部屋」がある。“すみっコぐらし”の心境で入ると、田中幸・結城千代子著「道具のブツリ」(大塚文香絵 雷鳥社)が4列ほど。ハサミなど日常の道具の物理法則が可愛い絵付きで説かれていて、あら面白い。そして同じ空間に「考えの整頓」「宇宙の地図」などなど。「科学に興味を持つと、暮らしの見え方が変わるかもね」と久禮さん。うんうん。「道具のブツリ」と、ドイツの街歩きエッセー「百年の散歩」(多和田葉子著 新潮社)を買って、満ち足りた気分で店を後にした。
◆品川区西五反田5-6-31-102/東急目黒線不動前駅から徒歩3分/℡03・6417・0302/12~20時/水曜と第1・第3火曜休み
ウチでよく売れる本
「ストーナー」ジョン・ウィリアムズ著、東江一紀訳
「年をとって田舎に帰った男が、大学を出て教師になって……という半生を静かに振り返る小説です。半世紀前にアメリカで刊行。世界中で翻訳出版されている中、日本では名翻訳家・東江一紀さんの最後の訳です。『訳者あとがきに代えて』に、『さざ波のようにひたひたと悲しみが寄せてくる』『しかし、そんな彼にも幸福な時間は訪れる』とありますが、共感する方、多いと思います」(作品社 2860円)