snowdrop(スノードロップ)(江古田)
日大芸術学部から徒歩4分の地。外に児童書や趣味の雑誌、文庫本などがお行儀よく並んでいる。お邪魔します──。
「井上さん、お会いしたことあるんですよ」と店主・南由紀さんがおっしゃる。2015年、大泉学園の古書店「ポラン書房」へ取材に伺ったとき、スタッフだったそう。
ポラン書房はあらゆるジャンルに精通したご夫婦経営のすてきな古書店だったが、21年2月に実店舗を閉じた。古書店仕事の一通りを経験し、14年間勤めた南さんが、「仕事は作業の集合体。沼みたいにハマって、仕事こそ至福の時間と思うほど」だったとあらば、その経験値と経験知を携え、21年4月に独立したのは必然だ、きっと。
約4.5坪。入るや否や、講談社学術文庫がかたまっている。「中世の狂気」「イギリス魔界紀行」「ペローの昔ばなし」など神話・伝説系もずらり。左手は箱入りの「いやいやえん」「福地泡介集」など懐かしい絵本や児童書だ。そして、「メインは、ちょっと古めの日本文学です」と南さん。
「温和なお話がダメで」と南さん
奥の2つの大きな棚で本領発揮。芥川龍之介、阿刀田高、阿部昭、安西篤子……と「あ」から順に作家名を探せる配置だ。「南さんのお好きな作家は?」と聞くと、「太宰治」と即答が。若い頃「人間失格」に挫折したが、ポラン書房時代に愛人の山崎富栄さんの日記を読んでイメージが変わったとか。「こじれ系がお好きってことです?」と振ってみたら、南さんは、「そうそうそう! 私、温和なお話がダメで、気持ち悪い系が好き(笑)」。
たとえば?
棚から1970年の芥川賞作家・吉田知子著「無明長夜」と「山鳴り」の2冊を取り出し、「あと、今切れてますが『千年往来』。虫についての書き出しからハマっちゃって。読み終わって、この話は何だったんだと迷ったままなんですよ」と喜々として。
いいなー、好きなことを仕事にできて、と思わず。滞在中「『大草原の小さな家』ありますか」と質問の年配女性、「現代思想」とギリシャ神話、精神病理学、英国紅茶の本を買って「並行して読みます」と話す日芸4年生らがいた。
■練馬区栄町24-4-1階/℡03・6356・5426/西武池袋線江古田駅から徒歩5分/12~20時(水曜14~20時)、不定休
わたしの推し本
「死の棘」島尾敏雄著
「重たいんですね。浮気しちゃった夫・トシオを責め続け、神経が狂ってしまった妻・ミホ。島尾敏雄さんの私小説です。“怖いもの見たさ”的に、すごく良かったんです。トシオとミホには子どもが2人いますが、こじれた夫婦の関係が子どもに影響しないはずはないじゃないですか。私は子どもたちの行く末を案じながら読みました。文庫本も置いていますが、これは昭和35年発行の初版本です」
(講談社 売値1540円)