北村匡平(東京工業大学准教授・映画研究者)
5月×日 物書きを生業としているので、文章の書き方に関する本は意識して目を通すようにしている。こうした類の本は文章の組み立て方や接続詞のテクニックなど「内容」に焦点をあてたものが多いが、阿部公彦著「文章は『形』から読む」(集英社 1144円)は言葉の中身ではなく入れ物、すなわち「形」が読者にいかに働きかけるかを論じた本だ。
契約書や小説、広告や注意書きといった身近な文を例に、その「形」から含意されているメタメッセージを読み解く。たとえば学習指導要領に潜む透明で明晰だから従えというメッセージや、料理本がにこやかさを演出する思惑など、私たちが無意識に受け取っていると思われる、形式が放つ力を浮き彫りにする。
ちょうど書き上げたばかりの新著の原稿を「形」にフォーカスして読み返す。すると書かれた内容とは別に、自分がどう振る舞おうとしているのかが見えてくる。自らの文章を俯瞰し、一歩引いた目線で捉え直せる、実に有用な本だった。
5月×日 ここ数年、遊具のフィールドワークをしている。公園に限らず、遊び場や幼稚園などを訪れて子どもの遊びを観察してきた。だからホイジンガやカイヨワに代表される遊び論や関連書籍をたくさん読んでいる。レイチェル・カーソン著「センス・オブ・ワンダー」(森田真生訳 筑摩書房 1980円)が新訳として蘇るというので楽しみに待ち望んでいた。
驚きと不思議に開かれた感受性をカーソンは「センス・オブ・ワンダー」と呼んだ。生まれ持った驚きと興奮に満ちた瑞々しい感性が、やがて人工物にとらわれ、人生に退屈し、失われてしまう。3人の子育てをしながら、ワンダーを分かち合えていない親としての自分を不甲斐なく思う。森のようちえんや冒険遊び場を調査して、日々「センス・オブ・ワンダー」を養っている子どもたちを見ると余計に……。スマホやパソコンが日常を覆い尽くした今こそ読まれるべき本。今度の週末は自然の美しさを味わいに子どもを森に連れて行こう。