「21世紀未来圏 日本再生の構想」寺島実郎著/岩波書店(選者・佐高信)
「21世紀未来圏 日本再生の構想」寺島実郎著/岩波書店
「一九〇〇年、欧州への旅」が副題の「若き日本の肖像」(新潮文庫)で著者は「欧州が見えなくなると日本は混迷する」と指摘している。また、大学生の頃に父親の書棚で見つけた本にあった「道に迷わば木を伐りて年輪を見よ」という言葉を締めとしている。
いずれも現在の日本を深く、そして広く照射する思考だろう。その視座に立って著者は「日本再生の構想」を提示した。
まず「反米でも嫌米でもない米国との関係再構築」である。
私はそれを“離米”と呼んでいるが、著者は「敗戦国・被爆国としての特殊な体験へのこだわりで、平和に対して敏感であり続け、『非核平和主義』を貫くこと」を主張する。そのためには米軍基地の縮小に踏み出さなければならない。
そして、米国の“保護領”ではない独立国であることを示すことが中国やアジアの国々との外交を展開する道を拓くことになる。
著者は「なぜ首都圏に二つの米軍専用ゴルフ場があるのか」といった具体的疑問を突きつけて、現在の「日米同盟」の異常さをクローズアップする。
安倍晋三が首相になった時、1ドルは100円を切っていた。それが150円になったということは、アベノミクスは円の価値を下落させるものでしかなかったということである。日本銀行を「物価の番人」でなくしたのも安倍だった。さらに安倍はカルトの統一教会を呼び込み、「主権在君」の教育勅語を副読本にして、保守政治の深層に「根腐れ」を生じさせた。
著者は、統一教会問題の本質は「反社会性」よりも「反日性」にあるとする。
文鮮明は、韓国は「アダム国家」で、日本は「エバ国家」であり、日本帝国主義の朝鮮半島支配への贖罪として、日本人は韓国に「献金」して償うのは当然としただけでなく、日本人および皇室を侮辱する発言を繰り返してきた。そんな統一教会と、保守を自称した安倍や自民党が深い関係を結んできたのだから呆れるほかない。そうした負の遺産の清算から再生は始まる。
著者の提言が示唆に富むのは、「ミクロ的な産業現場の構造的課題」にまで言及していることである。たとえば、技能五輪での金メダル獲得数は10年ほど前までは日本は世界のトップを競っていたが、2019年には7位に落ち、メディアで報道もされなくなった。現場軽視である。 ★★★