『「笑っていいとも!」とその時代』太田省一著/集英社新書(選者・中川淳一郎)
『「笑っていいとも!」とその時代』太田省一著
32年間にわたって日本のお昼を楽しませてきた「森田一義アワー 笑っていいとも!」(フジテレビ系)の成り立ちや、同番組がもたらした文化的・社会的影響をつぶさにつづった本である。いやぁ~、面白かった。と同時に、寂しさも感じた。
一体何が寂しいかといえば、「ひょうきん族」「全員集合」「ニュースステーション」といった番組に加え「いいとも!」はこのように一冊の本にして後世に教訓や裏話を残せるほどのコンテンツ力や社会的影響力を持ったが、2024年現在のテレビ番組がこのように一冊の本に将来的になり得るか? ということを考えた結果、「難しいな……」と思ったのだ。
テレビの影響力の低下に加え、総視聴率の低下も含め今や書籍にして分析する価値のある番組は存在しないのではないか。そんな状況下で登場した本書だが、「いいとも!」の画期性に加え、明石家さんま、ビートたけし、SMAPなど32年間の歴史を誇る同番組に出演した人々の功績についても振り返る。
同番組は新宿駅前のスタジオアルタで中継されていたが、本書では新宿という街の特徴も踏まえたうえで、こう分析する。素人が番組を盛り上げる一要素であることを前提にした話である。
〈『いいとも!』とは、その意味においてテレビがつくった公共の場、いわば「広場」だったと言えるだろう。放送されるのが、テレビ局のスタジオではなく、新宿という繁華街の街中にあるアルタというビルからだったということも、その印象を強める〉
このように番組がスタッフ・出演者・観覧者・出演する素人によって成り立っていることを明記しつつも、芸能界の事情についてもビシッと言及する。いわゆる「お笑いビッグ3」(タモリ・ビートたけし・明石家さんま)と「いいとも!」の関係性については本書のクライマックスの一つだろう。
最終回の「テレフォンショッキング」のゲストはたけしだったが、もはや翌日のゲストを呼ぶための電話は不要。だがたけしは電話をかけた。
〈その相手はさんまだった。「明日大丈夫?」とタモリに聞かれて「いいとも!」と答えるさんま。こうして最後は「ビッグ3」がその長年の絆、そしてその絆がこれからも再確認するかのような“共演”によって、『いいとも!』は大団円を迎えたのだった〉
1980年代から2000年代のテレビを楽しんだ世代は、この本を読んで懐かしい気持ちになるのも悪くない。 ★★★